ロッテ佐々木朗希投手(19)がついにプロ1勝目をつかんだ。舞台は甲子園。岩手・大船渡高時代は「あと1勝」で届かなかった聖地に、運命が重なった。「日本生命セ・パ交流戦」は阪神打線に5回7安打4失点も、最速154キロ直球を軸に5三振も奪うなど、鍛え上げた能力を発揮した。涙に暮れた東日本大震災から10年2カ月。仲間たちとの野球に支えられた少年が、立派な青年として1つの節目を堂々やり遂げた。

   ◇   ◇   ◇

初勝利の瞬間、佐々木朗希の周りにはやっぱり、仲間たちがいた。思わず万歳した両手を下げると、先輩たちの祝福が続く幸せな時間に。お立ち台で「うれしいです!」といつになく声を張った。「楽しかったです!」。純粋な思いが次々にわき出た。

午後6時8分、甲子園で第1球を投げた。剛速球とフルスイングが、銀傘に強い音を響かせる。どよめきの中、本人は必死だった。「高校生にとっては特別な場所だとは思うんですけど、今の僕にとってはそうではないので」。役目を果たすべく投げた。「自分の納得いく球は投げられなかった」と言う。2回に3連打で2失点。猛虎のすごみを感じながら、あきらめずに5回を粘り抜いた。

高校時代があって今がある。「ずっと野球をやってきた仲間と、一緒に甲子園に行きたかったから」と、強豪私立の誘いを断った。大船渡と陸前高田。複雑な海岸線をはさんで隣り合う街で、グラウンド上の顔ぶれは味方も相手もほとんど同じまま育った。

東晃生、及川恵介、大和田健人、小嶋啓介、木下大洋、熊谷温人、熊谷萌々、熊谷優成、今野聡太、佐川侑希、佐藤良樹、柴田貴広、清水聡太、鈴木蓮、立花綾都、田中友輝、千葉宗幸、新沼紳、三上陽暉、村上泰宗、吉田夏希、和田吟太。佐々木朗希は青春を共有した3年生22人と一緒に、甲子園を夢見た。「何が何でも行きたい」とはるか聖地での大団円を求めた。

505日前、上京の朝。玄関のドアを開けたら皆の笑顔があった。小雪が舞う中、万歳三唱での出発式に「すごく感動しました」。彼らには12月、野球部のバット納めで思いを語っていた。100人以上が見守る中、同級生や後輩たちに壇上で感謝を伝え、そのまま「自分事になるんですけど」と続けた。

「僕は最初、陸前高田市で生まれて、震災があって父と祖父と祖母を亡くして。そこで多分、人生で一番泣いたし、つらい思いをしました。小中高と野球をやる中でもずっと…悲しくて。そういう思いがあったから、これから後悔しないように頑張ろうって思えたし、そういう後悔があって強くなったのかなって思います。だからみんなには、後悔したことを大切にして強くなってほしいです」

仲間と家族の支えで、涙に暮れた少年は強くなった。その証しの大事なウイニングボール。「両親に渡したいと思います」。700キロ以上離れた三陸で緊張に耐え切った母は、息子の愛に号泣した。故郷に眠る父も、きっと。【金子真仁】