広島鈴木誠也外野手(26)が10日、金メダルとともに大きな財産を手に、広島に帰ってきた。

五輪に出場した4選手の合流は12日を予定していたが、2日前倒し。マツダスタジアムに姿を見せた。「やらないといけないことがありすぎて。ふがいなさすぎて、休む気力もないです。休んでいられないです。休もうかなとも思いましたけど、休んでいる場合じゃない。体が勝手に動いていました。朝早く起きて、ここに来ていました」。エキシビションマッチのソフトバンク戦に向けた全体練習に参加しただけでなく、試合出場も志願。6回に代打で登場し、四球を選んだ。

東京五輪では全5試合で4番を務め、37年ぶりとなる金メダルを獲得した。ただ、自身は準決勝まで1安打。苦しむ中でも、打ち取られれば悔しがり、チームが得点すれば喜ぶ。鈴木誠らしさが見られた。「野球本来の楽しさを久々に味わった気がした」。忘れかけていた、大事なものに気づかされた。

広島では今季から野手の主将となり、チームを背負う立場を自覚した。思うように勝てないチーム状況の中、無理していたところもあった。背伸びしていたのかもしれない。打ち取られても悔しさはのみ込み、打っても感情は隠した。「ちょっと自分の中でいろいろ抑える部分もあった。イチローさんや前田さんのように自分を持っている人も格好いいと思うし、憧れる部分もあったんですけど、自分は『ザ・仕事人』というタイプじゃない。野球を楽しむのが、僕のスタイル。侍を通して、本当の自分らしさを感じた」。侍ジャパンでは、打てない自分に先輩だけでなく、後輩も声をかけて、笑わせてくれた。グラウンド内外でチームメートに支えられ、そして団結力が勝利をたぐり寄せることを肌で感じた。

戦いながら懐かしさを感じた。「黒田さんや新井さんがそういう関係性をつくってくれていたので、いいチームができていたと思う」。侍の雰囲気は3連覇を成し遂げた広島と似ていた。だからこそ、1日も早くチームに合流したかった。広島に還元できるものがあると信じ、そして還元することが使命だと感じた。

1カ月ぶりにチームに合流した鈴木誠の表情が穏やかなのは、重圧から解放されたからだけではないだろう。チーム内や球界内で自分の立場や見られ方が変わっていったことで、気づかぬうちにかぶっていた仮面を外すことができた…。そんな、すがすがしさのようにも感じられた。

「(後半戦は)普通に楽しんで。小さいときからやってきた、野球本来の楽しむことがいいんだなと思った。侍は僕の中でいい経験になった」

地元東京で行われた五輪が、鈴木誠を本来の姿に戻したのかもしれない。後半戦は前半戦とは違う、でもどこか懐かしい、鈴木誠が見られそうだ。【前原淳】

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