ミスターに野球界初の勲章が贈られることが決まった。政府は26日、21年度の文化勲章受章者を発表し、巨人長嶋茂雄終身名誉監督(85)ら9人が選ばれた。スポーツ界からの選出は、水泳の故古橋広之進さんに続いて2人目。巨人時代は国民的スーパースターとして活躍し、引退後は巨人や日本代表で監督を務めた。今夏の東京五輪では開会式の聖火ランナーを務めた。

   ◇   ◇

野球界初の選出の知らせを受けた長嶋氏の第一声は「感謝」だった。椅子に腰を下ろし、無数のフラッシュを浴びながら「皆さんのおかけでもらったということは、非常にうれしい気持ちです」とほおを緩めた。 文化功労者にはV9監督の川上哲治氏らが選出されたことがあるが、文化勲章はスポーツ界で故古橋広之進さん以来2人目。「古橋さんは僕も会ったことがあり、うれしい気持ちを思い出しましたけど、僕の場合は野球界で初めての受章になったということなので何とも言えない気持ちでいっぱいです」と目尻を下げた。

日本国民に力を、希望を、笑顔を届け続けてきた。巨人時代には王貞治氏と「ON」として65~73年の巨人の9連覇に貢献。野球を国民的人気のスポーツにする一翼を担った。引退後は巨人とアテネ五輪日本代表の監督を務め、野球界を大いに盛り上げた。

04年のアテネ五輪直前に脳梗塞を患い、本戦では指揮を執ることができなかった。今も右半身にはまひが残るが懸命なリハビリを継続し、13年には愛弟子の松井秀喜氏とともに国民栄誉賞を受賞。今夏の東京五輪では王氏と松井氏とともに開会式の聖火リレー走者を務め、大きな感動を生んだ。「スポーツの祭典が2度、日本でやったということは素晴らしいことだと思いました。何とも言えない気持ちでいっぱいでありました」と、自らの功績よりもスポーツ界の発展を喜ぶところが、ミスターと呼ばれるゆえんでもある。

今年は巨人の試合観戦だけでなく、練習を視察して打撃指導するなど精力的だ。「野球というものはやっぱり何とも言えないスポーツだと思っています。いろんなスポーツがありますが、そういう違いがあるからこそチャンスが生まれ、また皆さんが一生懸命やるようになる。野球界のみならず、日本のスポーツも全般的に盛り上がっていけばいいと思います」。ミスターのスポーツ界への情熱は、今もなお燃え盛っている。

◆文化勲章と文化功労者 ともに「文化の発達に関し特に顕著な功績のある方」を指す。文化勲章は1937年(昭12)に制定。文部科学省が選考し閣議決定する。文化功労者は文化勲章に次ぐ栄誉。51年、勲章では年金支給できないことが憲法で定められていることなどから、文化功労者年金法によって制定された。文部科学大臣が候補者を文化審議会に諮問し、同大臣が最終決定する。現在は年額350万円の終身年金が支給される。文化勲章は前年度までの文化功労者の中から選ばれる。