ファンが心に描く理想を現実にする。だから「ミスター・ライオンズ」と呼ばれる。西武栗山巧外野手(38)が今季1号となるサヨナラ弾を放った。不振だったベテランが最高にドラマチックに決めた。

2-2同点の9回。出番は代打で巡ってきた。0-2と追い込まれた後の3球目。低めフォークをすくった。白球は右翼フェンスを越えた。「芯に当たったのも角度が付いたのも、ファンの皆さんの後押しがあったから」。サヨナラ弾は自身5年ぶり3度目だった。

ゆっくりとダイヤモンドを一周。表情をヘルメットで隠すように、何度か視線を落とした。感情をあらわにしたのは本塁を踏む前。ヘルメットを投げ捨て、仲間の輪に飛び込み、ウオーターシャワーを浴びた。その目は潤みを帯びていた。「水じゃないですか」と涙は否定する。ただお立ち台では何度か口元に力を込め、一文字に結んでいた。こみ上げるものがあった。

苦しかった。27日まで打率は1割台。昨季2000安打を達成し「自分の技術の先」の追求を目指した今季だったが、先発から外れる日も増えた。遠ざかる実戦感覚を補うべく、昼は2軍戦に出場し、夜は1軍戦に備えた時もあった。「仕事ができないもどかしさ」が募る日々。ただ絶対に準備だけは怠らない。練習量も調整するなど模索しながら出番に備えてきた。

「代打になるつもりはない」と言う。同時に「出番にこだわりがあるとかいうのではなく、どんな状況でも若手の手本、勝ちにつながるプレーを全うする。責任感を持ってやりたい」。複雑な心境の中に、打撃職人の意地とプライドがにじんだ。【上田悠太】

▽西武辻監督(栗山本塁打で、今季初のサヨナラ勝ち)「強振することなく、本当にうまく打ってくれた。大きな仕事をしてくれた。ファンにとっての栗山の価値というのを示してくれた。さらにチームにも勢いが出てくるんじゃないか」

【関連記事】西武ニュース一覧>>