夢をつなぐ可能性を切り開いた。ロッテ山口航輝外野手(21)が狙い通りの直球を迷わず振ると、とんでもない勢いで打球が飛んでいった。

「はい、打った瞬間でした」

飛距離のすごさを問われ、恐縮せずに胸を張れるほどの手ごたえ。打った瞬間とはいえ、次打者席の岡が右手を突き上げた時にはもう、白球は左翼の定位置近くまで進んでいた。確信弾。45度より小さい角度で上がり、4秒もかからず左翼ポール際中段より上に刺さる。その左翼席と正対しながら、ヒーローは軽やかに動き出した。

0-0の6回1死一、二塁。オリックス山岡の続投が決まり「これは強気に真っすぐで攻めてくるんじゃないかな」と読んだ上での決心が、試合を決める先制9号3ランになった。

7月下旬にコロナ陽性になり、寝込み、しばし復活に時間がかかった。2軍戦でもなかなか打球が上がらない。「急いで調整しましたし、2軍戦でもベストの状態では立てていなかったので」。それでも「いま5位で、やっぱり誰かが雰囲気を変えていかないといけない状況なので、そういう一員になれるように」と強い気持ちで戻ってきた。

後悔も上書きした。7月10日、同じ神戸での、同じ美馬学投手(35)が先発した試合だ。山口は右翼を守り、打球判断を誤り、2回裏ながら決勝点となる失点につなげてしまった。「自分のミスで負けを付けてしまったので。次に美馬さんが投げる時は守備でもそうですけど、自分がしっかり打って美馬さんに勝ちを付けようと思ってたので」。そんなこともあってこの日は「久々に緊張しました」と言いながら、一塁守備で難しい打球を立て続けに処理。十分取り返した。

中軸定着を期待されながらの9本塁打。キャンプイン前から「20本、30本」とイメージしていた数字にはまだ遠いが、井口監督も「そういう(中軸の)形でずっと育てていこうとやってきたので、結果さえ出てくれればありがたい」とスラッガーとしての資質には高い期待をかける。

今はまだ、勝っても負けても5位。ただ何度となく苦しんだ「チャンスでの1本」を解決できれば、勝ちを重ねられるチームでもある。有言実行の山口は、白球が正面遠くに弾んだのを確認すると、堂々と走り出した。焼き色がついたバットを、バットも地面も見ずにサラッと手首を傾けて離す。スラッガーらしい“絵になる”シーンが、まだ灯が消えていないことを感じさせた。【金子真仁】

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