<阪神5-0ヤクルト>◇12日◇甲子園

 トラの救世主だ!

 阪神秋山拓巳投手(19=西条)が、ヤクルトを相手にわずか4安打の無四球完封で本拠地甲子園デビューを飾った。高卒新人による完封勝利はセ・リーグ21年ぶりの快挙。しかも3勝すべてがチームの連敗を止める白星という力強さ。7回には適時打まで放つワンマンショーで、2戦連続逆転負けの重た~いムードを吹き飛ばした。

 秋山が伝説になった。打球を視線で追いかけ、両腕で控えめにガッツポーズ。「最終回は意識していました」。最後になって狙った0封。1死一塁。飯原を二ゴロ併殺打で締めた。わずか4安打、93球の完封劇。プロ初となる甲子園のマウンドで、4万6882人の視線を独り占めした。

 「高校時代から進化できて、プロの選手として(甲子園の)マウンドに立って、初登板で初完封できてすごくうれしいです」。尻上がりに調子を上げた。感情を見せたのは7回だ。2死から相川を122キロスライダーで遊ゴロに仕留めると、軽く右手でグラブをたたいた。8回には代打武内からこの日最速144キロで空振り三振を奪うと、右腕で右太ももをたたき上げてガッツポーズをみせた。

 序盤は直球が高めに浮いた。頼りになったのがカットボールだ。高校3年の6月。愛媛選抜としてハワイ選抜と対戦した。あろうことか、県内のライバル校、済美のエースから指摘を受けた。「お前は速いスライダーがないから苦しいんや」。しのぎを削るライバルに教えてもらった変化球は、当時140キロ後半の直球頼りだった右腕が、投球の幅を広げた。

 プロ初適時打も放った。2点リードの7回2死三塁、カウント1-0。ヤクルト村中の高め148キロ直球を思いきり振り抜いた。前進守備の三遊間を簡単に割り、プロ初打点となる3点目をたたき出した。「前日、タイムリーヒットを打って『秋山コール』を聞きたいと思っていたんです。投球練習の時にコールが聞こえてうれしかったです」と喜んだ。西条高時代は不動の4番打者として通算48本塁打。「伊予ゴジラ」と呼ばれた実力は評判通りだった。

 1日にして「聖地」のヒーローだ。高卒新人の完封勝利は球団では江夏、遠山に次いで3人目。甲子園初登板と無四球での達成はいずれも球団史上初の快挙だ。9日は中日との総力戦で延長12回引き分け。10、11日のヤクルト戦は継投策が裏目に出て逆転負けを喫していた。重苦しいムードを、新星が今季チーム2人目の完封で一掃した。苦境に現れたニューヒーローが、一気にスターダムを駆け上がる。【鎌田真一郎】

 [2010年9月13日8時26分

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