18歳青年の意志が、グラリと揺れた。日本ハムの山田正雄ゼネラルマネジャー(GM=68)らが17日、岩手・奥州市内のホテルでドラフト1位指名した花巻東・大谷翔平投手と2度目、両親とは3度目になる入団交渉を行った。両親のみだった前回同様、作成した資料を元に約1時間のプレゼンテーション。球団育成システムのほか「エース兼任4番」として育てたいという規格外の方針を提示すると、メジャー挑戦を表明している大谷の表情が緩んだ。次回交渉は未定だが、球団は栗山監督が出馬することも伝えた。

 日本球界としては異例の壮大な育成プランが、パイオニア精神を持つ大谷の心を強く揺さぶった。「エース兼任4番」を目指し、投手としてだけではなく、野手としても一流として育てたいという意向が、山田GMの口から出た瞬間だった。それまでは常に表情を硬くしていた大谷が「少しニコッとした」(同GM)。ドラフト当日の会見で「(メジャー挑戦の決断を覆すことは)自分自身の考えとしてはゼロです」と話していたが、同席した父徹さん(50)も「全くNOという感じでもない」と、息子の微妙な心境の変化を感じ取っていた。

 最速160キロをマークする剛腕でありながら、高校通算56本塁打の超高校級スラッガー。山田GMは「現時点では投手でも、打者としても素晴らしい素質を持っている」と絶賛。投打両面での育成計画は「栗山監督もそういう気持ちを持っている」と続けた。

 1度目の交渉で、大谷はメジャー挑戦について「高校生では初めてなので、パイオニアとして長くやっていきたい」と語った。だが同じように、日本球界で投手、打者両方で活躍できれば、それは誰も成し遂げたことがない偉業になる。山田GMは「そういった部分では、パイオニアになる。パイオニアとして育ててみたい。(投打兼任で)長くできれば一番いい」と訴えた。

 この日も作成した資料を元に、球団の育成システムなどを説明。1番から4番まで20代前半の選手が並んだ今季9月2日ソフトバンク戦のスタメンを例に、高卒わずか数年の選手たちが1軍で活躍し、成功している現状などを伝えた。また、球団内に16人のメジャー球団を経験した職員がいることも話題に。特に、来季から就任することが決まっている中垣トレーニングコーチは、今季レンジャーズでダルビッシュをトレーナーとしてサポートしていた。大渕スカウトディレクターは「アメリカの知識を持った人間が多くいます。(メジャー志向を持つ大谷が、入団後も)モチベーションを上げていくことができると思う」と、将来的なメジャー挑戦へのバックアップ体制もアピールした。

 次回交渉は未定だが、山田GMは「もし今後、そういう(交渉の)予定があれば、栗山監督も呼びたいと思っています」と、指揮官の直接出馬も明言。早ければ23日のファンフェスティバル、24日の優勝パレードなどの球団行事が落ち着く25日以降にも、過去に取材などで面識のある2人が顔を合わせることになる。日本ハムの熱意が、事態を少しずつ動かし始めた。【本間翼】<強行指名での主な入団選手>

 ◆81年工藤公康投手(名古屋電気)熊谷組入りが内定。全球団に指名を断る通達まで出したが、西武が6位指名。根本管理部長が口説いて入団。

 ◆82年荒木大輔投手(早実)早大進学希望で固まっていたが巨人とヤクルトが1位指名。抽選で交渉権を獲得したヤクルトが松園オーナーの直談判などで軟化させ、入団にこぎつけた。

 ◆85年桑田真澄投手(PL学園)早大進学を表明する中、同僚の清原を1位指名するとみられた巨人が桑田を1位指名する大波乱。桑田は方針転換して入団。

 ◆94年城島健司捕手(別府大付)駒大進学を表明していたが、地元九州のダイエーが1位指名。就任したばかりの王監督がすぐに会いに行き、結局入団。