<プロボクシング:WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦>◇29日◇さいたまスーパーアリーナ

 「亀田3兄弟」の長男亀田興毅(23=亀田)が、王者内藤を3-0の判定で破り、新王者となった。

 試合後のリング上で興毅はマイクを握った。いつものようなマイクパフォーマンスではなかった。「1本目の(世界王者の)ベルトはおやじにあげましたが、このベルトは僕を産んでくれたお母さんにささげたいと思います」。母は父史郎氏と教育方針の違いから興毅のプロデビュー前に離婚。東京に拠点を移してからも、興毅だけはたまに連絡をとる。そんな母への感謝の思いを言葉にした。

 「亀田家」を背負った戦いを制したから、家族への思いがあふれた。大毅の内藤戦後、父史郎氏は無期限のライセンス停止処分。代わりは長男しかいない。興毅は選手だけでなくトレーナー、マネジャーの顔も持った。「オレだけやない。大毅、和毅がおる。オレが頑張らなあかんやんか」。

 大毅が2度目の世界挑戦を控えた今年夏、興毅の平均睡眠時間は4時間。翌日の練習メニューを作っていると、すぐ時間は過ぎた。

 興毅

 おやじと相談もしたけど、練習メニューはオレが考えた。パソコンで作ってるやん。気づいたら夜中の2時、3時。それでも朝は絶対、一番に起きた。そうせな、大毅らにしめしつかんやん。

 自分より、弟たちのためのハードなメニューを組んだ。月~土みっちり。興毅にとって、最大の楽しみが「土曜日の夜」だった。

 興毅

 翌朝、起きる時間を気にせんでええやん。だから土曜の夜だけはめっちゃ幸せやねん。最悪なんは日曜の夜。サザエさんが始まったら「ああ、またしんどい1週間が始まる」っていつも思うもん。

 大毅の世界戦前は「広報部長」として、PRに走り回った。「自分のため」に切り替えたのは「弟のため」が終わった後。2カ月足らずの期間で仕上げ、因縁の戦いを制した。

 内藤戦の後、大毅は家でもしゃべらなくなった。そんな大毅に和毅は「大ちゃん、うっとうしいわ」と容赦ない言葉を投げかける。個性的な弟をまとめてきた長男。試合後、戻った控室で興毅は弟たちと抱き合い、号泣した。【実藤健一】