アーティストとしても活動する新日本プロレスYOH(31)の2度目の個展「YOHの部屋(風呂なし)」が10月26日まで東京・アートコンプレックスセンターで開かれている。一見「?」な作品について、YOH本人に解説してもらった。【取材・構成=高場泉穂】

展示スペースのトイレに溶け込む、プロレスラーでアーティストのYOH(撮影・河田真司)
展示スペースのトイレに溶け込む、プロレスラーでアーティストのYOH(撮影・河田真司)

建物内のいくつかの部屋をのぞき、やっと見つけた展示「YOHの部屋」はトイレの中にあった。便器と床は黒い線と色面(しきめん)で構成されたピエト・モンドリアンの抽象画で覆われ、後ろの壁面にはシルクスクリーンで複製した便器の図が12枚。ところどころにプロレスラーYOHの象徴ともいえる星を木でかたどったものが置いてある。「この空間は好きで、うまくいったかなと思います」と自慢げに話す通り、わずか1畳分のスペースに自分の好きなものを美しく配したインスタレーションだ。

少年の頃からの夢が実現した。「いつかぼくもプロレスラーになったら、バンドやってみたい、個展したい。軸に枝をつけたいと思っていた」。本格的にアート活動を始めたのは約1年半前から。プロレスラーを描く旧知の日本画家森博幸さんにアドバイスを受けながら、絵を描き始め、「描けば描くほど上手になる自分がいやになって」と次第にシルクスクリーンや物を使っての表現に発展した。

YOHの展示スペースであるトイレは通常使用可能
YOHの展示スペースであるトイレは通常使用可能

しかし、なぜトイレ、便器を使うのか。YOHの答えは「うんちが好きなんです」だった。「毎日違う色で、うんちだってアート。100人いたら100個違う。ただ出すものじゃない、生み出すもの」と哲学的にうんちの魅力を語った。自然と引かれる便器をそのまま展示してみたい。調べているうち知ったのが芸術家マルセル・デュシャン。便器に「泉」とタイトルを付け、展示会場に置いた現代アートの先駆者だった。「自分と考えが一緒の人いるんだと思った。もしかしてボクは生まれ変わりかもしれないです(笑い)」。

アイデアは次から次へと湧いてくる。「映像とか作りたいです。クレーン車で便器を落とすんです。それを映像にとって…。そういうことばっかり考えてます」。年内には六本木で師匠森さんと一緒に展示を行う予定だ。プロレスラーでありながら芸術活動をすることで「うまく回っている。これを続けていってどうなるのかなという未来を想像して、ワクワクしてます」とうれしそうに語った。

YOHが描き上げたユニークなイラストも展示されている
YOHが描き上げたユニークなイラストも展示されている

プロレスファンが自身の作品に興味を持つのと同様に、作品からプロレスを知る人が増えることに期待する。「きっかけが自分の作品だったらうれしい。根底にあるのはプロレスを広めたい、届けたいという思い」。大好きなうんちと向き合いながら、新たなアートを生み出していくつもりだ。

◆YOH(よう)1988年(昭63)、宮城県栗原市生まれ。12年2月に入門テストに合格し、同11月にデビュー。16年1月からメキシコ遠征へ、その後米国ROHでも活躍。17年10月に凱旋(がいせん)帰国。SHO、ロッキー・ロメロとともに「ROPPPONG 3K」のチームを組む。SHOとのタッグで第54、56、59代IWGPジュニアタッグ王者。172センチ、85キロ。得意技はファイブスタークラッチ。