「世界王者が、こんなにええ子ばっかりでええんか?」というのが、数カ月前からボクシング担当になった、52歳記者の率直な感想である。

 WBC世界ライトフライ級王者拳四朗(25=BMB)は中学生顔負け? の幼い見た目と柔らかい空気感に驚いた。WBO世界ミニマム級王者山中竜也(22=真正)は、腰の低さに驚いた。そして今回、IBF世界ミニマム級王者京口紘人(23=ワタナベ)を初めて取材した。

 京口は9月29日、大阪・堺市の浜寺小で特別授業の講師を務めた。6年生の全児童69人に「夢」の大切さを語った。質問コーナーで間断なく手を挙げる児童に「物おじせんなあ…」と舌を巻いたが、質問がどんなものでも同じ目線で懸命に答える姿に感心した。「筋肉見せて!」というムチャぶりにも、そそくさとシャツをまくって腹筋を見せる。井上孝志トレーナー(47)相手に軽いミット打ちを披露した際は、興味津々の男性教諭にもミットを持たせ、パンチ(もちろん軽め)を味わってもらい、児童を大喜びさせた。

 極め付きは授業終了後だ。校長室でひと息ついていると、授業に出ていた児童がサイン目当てに次々と押しかけてきた。クリアファイルにねだるのは上等な方で、ノートの裏面にお願いする子もいた。その1人1人に「名前、なんていうの?」と聞いて、ちゃんと添え書きする。白地のスペースがほぼない、阪神タイガースの下敷きを差し出された時は「うわ~、これ、どこに書こ?」と笑いながら、その児童と相談してサインの場所を決めていた。おそらく授業を受けた6年生ほぼ全員に、たっぷり30分以上かけて対応したと思う。

 今風に言うなら“神対応”のサービス精神。京口は「いや~、思った以上に、興味を持ってくれていて、ほんまにうれしかったです。僕もかなり活発な方やったけど、みんな元気ですね」と笑うだけ。疲れたそぶりを、これっぽっちも見せなかった。

 かつてボクシングといえば、原動力=ハングリー精神やった。ギラついて、とんがって、人付き合いもうまくない。良くも悪くも自己中心的で自分勝手。それでも、許されるのが強者の特権やった。弱肉強食の世界において、それは間違ってへんと思う、思うけど…。もう、そんな時代ではないのかもしれませんなあ。【加藤裕一】