佳境を迎えた新日本のG1クライマックス。シングルのリーグ戦はやはり楽しくて、通常のタイトルマッチにない番狂わせがしばしば起こる。8月4日の大阪大会でもあった。輝いたのは石井智宏だ。

新日本プロレスG1クライマックス出場者記者会見 入場時、ポーズをする石井智宏=2018年7月13日
新日本プロレスG1クライマックス出場者記者会見 入場時、ポーズをする石井智宏=2018年7月13日

 日本人男性の平均身長とほぼ同じ170センチで、体重100キロ。短めの手足で、スタイルはお世辞にも「いい」とは言えない。その体の上に丸刈り頭、無精(?)ひげのごつめの顔がのっている。見た目は明らかにオカダ・カズチカ、棚橋弘至、内藤哲也ら華やかな一群とは違う。典型的なバイプレーヤータイプだ。

オメガ(左)にラリアートを決める石井(撮影・垰建太)(2018年8月4日)
オメガ(左)にラリアートを決める石井(撮影・垰建太)(2018年8月4日)

 しかし、強い。その日はBブロック公式戦で、相手はIWGPヘビー級王者ケニー・オメガ。王者の躍動感あふれる、多種多様な技を、体全体で受け止め、跳ね返した。要所で見せる頭突き(あえてヘッドバットとは言わんでおきましょう)や、パワー系の技で試合にアクセントを加え、垂直落下式ブレーンバスターでとどめを刺した。

右が石井智宏、左は長州力、中央はニコラス・ペタス(2005年9月7日)
右が石井智宏、左は長州力、中央はニコラス・ペタス(2005年9月7日)

 天龍源一郎、長州力の薫陶を受けてきたことが手に取るようにわかる、ゴツゴツしたファイトスタイル。見ていて、とても痛い。かつて山崎一夫や藤田和之が絶賛したのが、よくわかる。鈴木みのるとは少し違うけど「説得力」という点では、多士済々の新日本でも出色だと思う。

 ファンが彼の力を百も承知なことは、オメガ戦での歓声、拍手で手に取るようにわかった。「番狂わせ」と言うには失礼で、IWGPヘビー級王者の全勝街道に立ちふさがったレスラーが「石井でよかった」という空気感が、場内には確かにあった。

 「あいつ、今が一番楽しいだろうな。すべて思い通りで。でもな、世の中そんなに甘くねえんだよ。山あり谷ありで、必ず障害があるんだよ。おめえ(オメガ)にとっては、それが俺だ。今だけじゃねえぞ。これからもだ」。オメガ戦後、それだけを言い残して、インタビューエリアを後にした。俺にもっと仕事をさせろ、と言わんばかりに。

 42歳。今のパフォーマンスをどれだけ維持できるのか。だから、早いとこもうひと花咲かせてほしい。近いうちに、IWGPへの挑戦はないかな。10年10月から11年2月まで、第55代王者として君臨した小島聡以来となる40代王者の勇姿がぜひ見たい。【加藤裕一】