WBA世界ミドル級タイトルマッチ、顔面に挑戦者ブラントのストレートを受ける村田諒太(2018年10月20日撮影)
WBA世界ミドル級タイトルマッチ、顔面に挑戦者ブラントのストレートを受ける村田諒太(2018年10月20日撮影)

ボクシングの難しさと奥深さをあらためて知らされた。WBA世界ミドル級王者村田諒太の初防衛戦。試合発表時から村田はKOを意識していた。挑戦者ブラントは無名であり、村田がいつ捕まえ、倒しきれるかが焦点と思われた。よもや負けるとは思わなかった。

村田は「幅の狭さを感じた」と振り返った。金メダリストからのプロ転向。当初はプロ仕様に改造へいろいろ試みた。アウトボクシングにも取り組んだが「強みを生かそう」と、本来のガードを固めてプレスをかける、アマ時代のスタイルに戻った。

ブラントには弱みをつかれた。スピードについていけなかった。防御で対応しきれず、ボディーもかわされた。ガードだけでは小さくても蓄積するダメージを受けた。かわしきる技術はなかった。右ストレートもこの階級ではまだまだ。手数も少なかった。

DAZNがこれまでにない有料ネットで独占生中継した。東京のスタジオでゲストの元世界王者西岡利晃氏とタレント香川照之は苦渋の表情。ブラントを一言ほめると早々に中継は終了。予定されていた取材対応は中止となった。DAZNは今回初の日本選手の世界戦。事前に地上波でバンバンCMを流し、起爆剤との期待も吹き飛んでしまった。

初防衛後にゴロフキンとのビッグマッチ、東京ドームでのビッグイベントのプランが浮上していた。業界内も村田を中心としたボクシングの盛り上がりに大きな期待を寄せていた。業界には大きな、大きなショックだった。

1年前は男子の世界王者は10人いたが、今や4人になった。後楽園ホールでの興行では観客が1000人を切ることも珍しくない。井上の怪物ぶりだけは衰えることがないが、ボクシングの人気拡大にオリンピック(五輪)好きの日本にあって村田は不可欠だった。プロとアマ、それもミドル級で世界の頂点に立った偉業は色あせることはないが、この黒星は痛かった。

日本独特のジム制度は長所も多いが、ジム主体の興行の厳しさを増している。ファイトマネーを生み出すテレビも今や地上波は3局程度になってしまった。競技人口減少の歯止めもきかない。スターの存在はインパクトがあるが、業界が一体となっての抜本的改革は必要だ。ボクシング界の行く末が心配である。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」

WBA世界ミドル級タイトルマッチで判定で挑戦者ブラントに敗れ、ぼう然とする村田諒太(2018年10月20日撮影)
WBA世界ミドル級タイトルマッチで判定で挑戦者ブラントに敗れ、ぼう然とする村田諒太(2018年10月20日撮影)