新型コロナウイルスのせいで閉じられていたスポーツの世界も、徐々にだが、ようやく動きだそうとしている。ボクシングも7月12日に愛知県内で無観客で実施される。大阪でも。「再開」に名乗りをあげたのがグリーンツダジム。本石昌也会長(44)は、出身地の大阪・枚方(ひらかた)市で8月9日に興行を行う強い意思を示した。

6月11日に枚方市役所の伏見隆市長を訪問し、新型コロナウイルス感染症対策応援基金として、100万円を寄贈した。そして「コロナに負けず、枚方に貢献していきたい」と8月に行う興行の意義を強く訴えた。ボクシングは当面無観客も、客入れができる状況となることを期待する。ただ、会長は「無観客でも枚方でやります」。地元の市民に闘う姿を見せたい。その思いを伝えた。

その興行でメインを務めるのも、枚方市出身の元日本ウエルター級王者矢田良太(31)。昨年12月、WBOアジア太平洋ウエルター級王座決定戦で10回TKO負け。「もうダメか」と引退を考えたという。

年末年始は夫人の実家・高知へ。引退後は営む土佐文旦の農園を継ぐ約束があり、収穫を手伝うためだった。「むちゃくちゃしんどかった。農業をなめてました」。大事に育てた作物を大事に収穫する。その作業を手伝いながら、わき上がるものがあって作業の合間に走った。その気持ちは、義理の父に見透かされた。「何のために走る? (ボクシングを)やりたいんやろ。思い切りやってこい」と背中を押され、再起に向かった。

そこに襲われたコロナ禍。ジムも休業となったが、矢田は近くの公園でトレーニングを続けた。ジム再開後は「練習ができてうれしかった。普通にやれていたことをやれなかったことで、今はありがたみを感じている。地元で再起戦ということで、勇気と感動を届けられればと思っている」と誓った。

タイトル戦でもないが8・9、枚方市総合体育館の四角いリングには男たちのドラマが詰まる。コロナに負けない熱い戦いを待ち望む人々も、決して少なくないだろう。【実藤健一】