久しぶりにボクシングの「醍醐味(だいごみ)」を堪能した。WBA世界スーパー、IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦が19日(日本時間20日)、米ラスベガスで行われた。

王者に君臨する井上尚弥(28=大橋)は挑戦者のIBF同級1位マイケル・ダスマリナス(フィリピン)から2回、そして3回に2度と計3回のダウンを奪ってTKO勝ちした。圧巻の勝利だったが、興味深かったのはその倒し方。3度のダウンはいずれも左ボディーで相手をもん絶させた。

ボクシングは拳を交える前に「減量」という戦いが必ず待ち受ける。そのコンディションの持ち方によって当然、戦い方も左右される。相手の状態を見極めた上での戦い方も大事な要素といえる。

思い出したのが97年11月のWBC世界バンタム級タイトルマッチ、辰吉丈一郎が王者シリモンコン・ナコントンパークビュー(タイ)に挑んだ一戦だ。当時、眼疾から復帰して連敗の辰吉はがけっぷちに追い込まれていた。一方のシリモンコンは上り調子の若き無敗の王者。戦前の予想は辰吉の圧倒的不利だった。

試合前日、シリモンコンの発熱が明らかになった。無敵の王者にとって、最大の敵が減量。厳しい体重調整による体の悲鳴が発熱として表れた。しかし、何とか計量をクリアした当日。リングサイドの記者席から見上げた両者は、体が倍ぐらいの違いに見えた。「辰吉が殺される」と震えたほどだった。

しかし、試合は辰吉が勇敢に進めた。勝機となったのが左ボディー。厳しい減量を乗り越えてきたシリモンコンのコンディションはやはり、万全とは言えなかったのだろう。脇腹に辰吉の左ボディーが突き刺さり、ベルトを奪い取った。

その試合と先日の井上の試合を重ねるのは乱暴だが共通する「左ボディー」のキーワードにはそそられる。現役ボクサーに聞いた話だが、1発で意識を飛ばすのは顔面に食らうパンチだが、ダメージの蓄積でどうしようもなくなるのがボディー攻めという。井上も2回の一撃で瞬時にKOへの戦略図が描かれたはず。試合の中で相手の状態を見極め、攻略図を描く。それができるからこその「モンスター」だろう。

王者には年内にも、4団体統一のプランが浮上してきた。「モンスター」はどこまで進化するのか。「左ボディー」の引き出しも披露して、楽しみは無限に広がった。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

20日のタイトルマッチ ダウンし、苦しい表情を見せるダスマリナス(AP)
20日のタイトルマッチ ダウンし、苦しい表情を見せるダスマリナス(AP)