見ていて久々に鳥肌が立つ激闘だった。22日に京都市体育館で行われたWBC世界ライトフライ級タイトルマッチ。世界初挑戦の矢吹正道(29=緑)が、王者寺地拳四朗(29=BMB)との壮絶な殴り合いを制し、10回TKO勝ちで新王者となった。周囲で今年の年間最高試合の声もあがるが、全く異論はない。

試合後にこのまま、引退の可能性も示唆した矢吹だが、23日の一夜明け会見でも「昨日言った通りですね」と曲げなかった。その一方で「兄弟でチャンピオンが自分の目標。自分はかなえたんで、弟をチャンピオンにしてやりたい」と言った。

世界戦でセコンドについた弟は力石政法(27=緑)。9勝(5KO)1敗で日本ライト級6位にランクする。17年12月、兄と一緒に緑ジムに入門した。本名は佐藤だが、兄が矢吹で弟は力石。不滅のボクシングマンガ「あしたのジョー」に魅入られた兄弟だ。

兄は少年時代、補導歴50回以上と荒れていた。その兄いわく、弟は「それ以上」という。それだけに2人の絆は深い。緑ジムの松尾敏郎会長が「兄弟、本当に仲いいですよ」と話す。荒れていたからこそ、支え合う。セコンドとして兄の世界王座奪取を支えた弟が、今度は主役の座を狙う。

松尾会長いわく「素質は高いですよ。世界チャンピオンクラス。兄ちゃんよりもあるんじゃないですかね」。強いから対戦相手がなかなか見つからない。力石は「ファイトマネーはいらないから、試合を組んでほしい」と松尾会長に頼んだこともあるという。

引退も示唆した兄のこともあり、今後は不透明だが兄弟、同じリングでタイトル戦のシナリオも見えてきた。兄は世界、弟はまず日本。警察の手を焼かせてきた「ワルの兄弟」が、多くの人を感動させる華やかな舞台へ。「あしたのジョー」兄弟に、そんなドラマを期待したくなった。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)