前WBC世界ライトフライ級王者の矢吹正道(29=緑)が現役続行を表明した。8月11日に愛知・刈谷市でWBO世界同級5位のタノンサック・シムシー(21=タイ)と契約50・0キロの10回戦で対戦する。

昨年9月に安定王者の寺地拳四朗(30=BMB)から10回TKOでベルトを奪った矢吹だが、今年3月の初防衛戦、ダイレクトリマッチで3回KO負けを喫した。「もう辞めようと思って1週間ぐらいだらだら暮らしていました」。そんな「終わり」から「復活」へ駆り立てたのが子どもたちの存在だった。

長女の夢月(ゆづき)ちゃん(11)、長男の克羽(かつば、8)くんとも、お父さんの影響を受けてか、ボクシングを始めた。特に克羽くんは通学前、毎朝6時に矢吹を相手にミット打ちを行うのが日課。そのセンスは、この時点で一目瞭然だ。

矢吹はボクシングの底辺拡大を目指し、昨年から所属の名古屋市内の緑ジムでこどもの日、5月5日に「スパーリング大会」を開催する。「この中から世界王者が誕生してほしいですね」と夢を語る。

もちろん、相手の脳を揺らす生死をかけた危険なスポーツだが、人生をかけた魅力的な競技でもある。厳しい体重制。各自の減量法によっては数日で10キロ近く落とす過酷なスポーツだからこそ、勝利にたどりつくドラマは深い。

矢吹も補導歴50回超の壮絶な少年時代から、ボクシングと出会って世界王者にまでなった。そんな逆転人生をいまだくすぶっている少年少女に伝えたい思いがある。

そんな子どもたちの存在にも刺激を受けて、矢吹は再び立ち上がる。「立て、立つんだジョー!」は不朽のボクシングマンガ「あしたのジョー」で、悪事に手を染め少年院に行った「悪童」の主人公・矢吹丈をボクシングで更正させた丹下段平の名セリフだ。

ボクシングとは、奥が深い。これまで長い取材担当で極めていた気になっていたが、子どもを通じた矢吹の思いにあらためて教えられた思いだ。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)