5月13日に初日を迎える夏場所まで、1カ月を切っている。4月1日から始まった春巡業も、きょう27日で終了。4月30日には夏場所の新番付発表も行われ、いよいよ本場所へのムードも高まってくる。だが、今巡業中も「女性は土俵から下りて下さい」問題や、力士が子どもに稽古をつけるちびっ子相撲に「女の子上げない」問題など、またも土俵外での話題で角界が揺れた。昨年11月に元横綱日馬富士関による傷害事件が発覚以降、止まらない不祥事ラッシュ。以降、このネットコラムでも各相撲担当記者がその時々の“不祥事ネタ”を扱ってきた。ただ、そろそろ純粋に本土俵に集中したい、楽しみたいと思う今日この頃。今回は不祥事ネタを回避しようと思う。

 巡業中の支度部屋でぼやいていたのは、平幕の朝乃山(24=高砂)だった。近畿大出身のいわゆる学生出身力士で、16年春場所に三段目最下位格付け出しデビューした。あれよあれよと、9場所連続勝ち越しで昨年秋場所で新入幕に昇進。実力に加えて、かわいらしい顔ということもあり人気もある。ファンと密接になる巡業では、ひとたび外に出れば大勢のファンから写真撮影やサインをねだられる。この日も、昼食を会場外の売店に買いに行き、支度部屋に戻ってくるまでに多くのファンと触れ合った。喜ばしいようにも思えるが、浮かない顔でため息をついて言った。

 「また豊山に間違えられました」

 朝乃山にとって豊山は、同期の中でも特別な存在だ。豊山も東農大出身の学生出身力士で、同じく三段目最下位格付け出しで16年春場所でデビューした。富山出身の朝乃山と新潟出身の豊山は、高校時代も一緒に稽古をしたことがある仲。そんな2人が同期で、しかも同じ場所で同じ番付でデビューした。そして記念すべきデビュー戦が、朝乃山-豊山だったのだ。軍配が上がった豊山は、デビュー場所で全勝優勝。翌夏場所も幕下全勝優勝して、朝乃山よりも2場所早く、昨年夏場所で新入幕に昇進した。

 たかが一番、されど一番。朝乃山の豊山への嫉妬心というか、執着心というか、ライバル意識はかなり高い。一方、豊山はさらっとしている。その2人の“すれ違い”が、またも朝乃山の闘志を燃やす。2人の取組が分かると、朝乃山は「絶対に負けられない」などと意気込めば、豊山は「向こうが意識してるだけですから~」と1歩引いた、どこか余裕が感じられるような言い回しでいなす。「今日どうでしたか?」「懸賞何本ですか?」と相手の勝敗、懸賞を気にするのはいつも朝乃山。そしてなぜか、それだけ意識している同期にファンから間違われることが多いという。

 という訳で、豊山に間違われるのはショックというか、歯がゆいというか。ただ、2人の仲は決して悪くない。本場所中でも支度部屋で一緒になれば、取組後に2人で話す場面をよく見るし、巡業中も談笑する場面もよく見る。まさに良きライバル、と言ったところか。

 春場所を西前頭13枚目で8勝した朝乃山と、西前頭11枚目で10勝した豊山。夏場所の番付では、それなりの開きが出てくると思われる。それがまた朝乃山の闘志に火をつける。間違われたことに肩を落としたのもつかのま、「絶対に抜いてやりますよ」と、近くにいる豊山に聞こえるか聞こえないかぐらいの声の大きさで、ニヤリとしながら言った。若手の台頭が目立つ昨今。こんな2人のライバル物語に目が離せない。【佐々木隆史】

豊山
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