今、最も観客を沸かせる力士は、松鳳山(34=二所ノ関)だろう。11月の九州場所は西前頭7枚目で10勝5敗の好成績。中でも、個人的に最も印象に残ったのが6日目、東前頭9枚目の琴奨菊との一番だ。ともに福岡県出身のご当所。さらには、ともにあと2カ月ほどで35歳となる同級生で、初対決は19年前の高校1年時という関係だけに、気合が入るのも当然だ。立ち合いから攻勢に出たのは松鳳山だった。一気に土俵際まで押し込んだが、琴奨菊に粘られ、押し戻された。ならばと再び土俵際まで寄るが、まだまだ決着はつかず。逆に琴奨菊の反撃にあったが、今度は松鳳山がこらえる。休むことなく1分半近くも攻防が続いた熱戦を、最後は松鳳山が上手ひねりを決めて決着をつけた。

松鳳山にとって、九州場所での琴奨菊戦は5度目で初白星となった。通算では7勝14敗となった。幕内前半戦の最後の取組とあって、水をつけて支度部屋に戻るまでに時間は空いていた。それでも肩で息をしていた。風呂から出てきても、まだ呼吸は整わない。それほど力の入った一番。「本当にきつかった。3番ぐらい相撲を取ったような感じ。終わった後に座りたかった。でも、よく我慢して相撲を取れたと思う。負けてたら地獄の苦しみだった」と笑って振り返った。ベテランが無我夢中で取る姿はすがすがしい。観衆が拍手喝采、大盛り上がりだったのは言うまでもなかった。

ある相撲協会幹部は、この一番を振り返り「全盛期だったら、松鳳山が立ち合いから一気に持っていっていたかもしれない。それは琴奨菊にも言えること。全盛期だったら、残した後に寄り切るだけの力があったと思う。互いに1番よかった時よりも、力が少しずつ落ちていることで、結果的には名勝負が生まれた。相撲というのは分からんもんだね」と話していた。パワーだけに頼りがちな20代とは違い、技術や駆け引き、心理戦-。あらゆるものを駆使して、白星への道筋を探っていく。一方で、松鳳山は「余計なことを考えなかったのがよかった」と、琴奨菊戦の勝因を挙げてもいる。いざとなったら後先考えず、前に進み続ける相撲っぷりの良さも、観客を引きつけてやまない。

そんな相撲内容の良さに審判部も期待を込めて、千秋楽は結び前で大関栃ノ心戦を組まれた。その期待に応え、九州場所の優勝を左右する高安-御嶽海戦の直前に、またまた会場を沸かせた。怪力大関を相手に素早い動きで2度も背後を取って、まず歓声。それでも、強引に押しつぶされて敗れたかに見えたが、立ち合い直後に審判から「待った」がかかっていた。命拾いした格好で再び歓声。次は行司が「待った」をかけ、3度目の立ち合いの時には、大きく肩で息をしていた。その3度目も寄り切られたかに見えたが、物言いの末、その前に栃ノ心の右足が土俵を割っていた。2度も命拾いした格好の松鳳山を、最後は大歓声が包み込んだ。

現役力士では屈指のこわもてで、一見すると親しみやすさとはほど遠い。だが取組後の支度部屋では、勝っても負けても常に、松鳳山は多くの報道陣に囲まれる。ユニークな人柄は、多くの人を引きつける。何よりも、部屋では午前6時台には稽古を始め、巡業では申し合いのスタイルで稽古していた夏巡業までは必ず、錦木とともに幕内力士の中で最初に土俵に立つ、まじめな姿勢を貫いている。その錦木とは7歳も違い、自身は大卒、錦木は中卒で角界入りしたが「同期」と呼ぶ。常に偉ぶるようなこともない。来年1月の初場所では再び、上位総当たりとなる地位まで番付を上げると予想される。その中でも松鳳山が観衆を沸かせるようなことになれば-。ベテランが2019年最初の場所で、波乱を演出する可能性は十分だ。

【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

大相撲九州場所6日目  栃ノ心対松鳳山は取り直しとなる
大相撲九州場所6日目  栃ノ心対松鳳山は取り直しとなる