WBC世界バンタム級王者山中慎介(32=帝拳)が、剣の達人も太鼓判を押す自慢の左ストレートでV8を果たす。15日、大阪市内で同級7位サンティリャンとの8度の防衛戦(大阪府立体育会館)の前日計量に出席。「必ず勝ちます」と短い言葉で勝利を誓った。KO連発の得意の左は、対戦相手との独特の「間合い」に重要な意味があった。決戦を直前に控え、同じ対人競技の剣道で85年の世界選手権を制した香田郡秀8段(57)に話を聞いた。

 一撃必殺の左ストレートで世界の頂点に君臨し続ける山中。その強さの糸口を探ると、剣の世界を極めた香田氏ならではの「間合い」というキーワードが浮かび上がった。「格闘技好き」を自任するだけあり、時に拳を握り、身ぶり手ぶりを交え熱く語り始めた。

 山中を担当する大和トレーナーは、王者の特徴を「構えた時の相手との距離が平均的な選手より半歩は遠い」と説明する。両足の間隔60センチを1歩とすると、わずか30センチ。香田氏はその距離が持つ意味を解説した。

 香田氏 ボクシングも剣道も考え方は同じ。理想的な間合いというのは相手からは遠く感じ、自分は相手を近くに感じること。山中選手のように、実際に相手が技を出せない距離で戦えるのは非常に有利。

 山中のパンチは「伸びる」と表現される。下半身の強さを生かした踏み込みと、ねじ込むような拳のひねりが遠い間合いからの一撃を可能にしている。香田氏はその技術に加え、相手に防御の準備をさせないこともポイントに挙げた。

 香田氏 強い選手は構えた姿が美しい。肩に余計な力が入っていないからすぐに攻撃できる。剣道では「間合いを盗む」と言うが、攻撃に入る時に上下動がないから敵は反応が遅れる。

 間合いが相手との「距離」という意味だけではないことも強調した。タイミングを意味する時間的なもの、心の駆け引きを表す心理的な間合いも存在する。

 香田氏 レベルが高くなればなるほど、身体能力だけでは戦えない。剣道も、最近は2メートル近い長身の外国人選手が増えた。ただ、スピードがあっても、打つ機会を知らないと当たらない。強い選手は、ここは危ない、ここは打てるという自分の間合いを持っている。

 攻撃を仕掛けるタイミングは3つに分類できるという。相手が(1)気を抜いてる時(2)技を出し終えた時(3)技を出そうとした瞬間だ。(3)はボクシングに置き換えるとカウンター。そこにも間合いの極意がある。

 香田氏 強い選手は相手を自分の間合いに引きずり込むのがうまい。不用意な攻撃を打たせ、そこに生まれた隙を狙う。間合いを支配すれば、試合全体を掌握できるのだ。【取材・構成=奥山将志】

 ◆香田郡秀(こうだ・くにひで)1957年(昭32)8月28日、長崎・長崎市生まれ。長崎東高3年でインターハイ優勝。筑波大卒業後、長崎で高校教員に。85年第6回世界選手権(パリ)で個人優勝。その後筑波大の教員となり、現在は教授。剣道部部長も務める。合格率0・8%といわれる現在の最高段位8段を保持する。