ボクシングのWBC世界フライ級新王者に就いたばかりの比嘉大吾(21=白井・具志堅スポーツ)が23日、練習を終えて汗がしたたる上半身裸姿で、少ししょげていた。

 「だって、街を歩いていても、会長なんですよ。僕には気付いてもくれない。もっといけるかなと思ってたんですけど…」。子どもがすねたように、どこか憎めない物言い。「会長」とは具志堅用高氏(61)のこと。元WBA世界ライトフライ級王者にして日本記録の世界戦連続防衛13回の偉業を持ち、何よりアフロ頭とヒゲという無類のトレードマークで知られる所属ジムの会長である。

 5月20日の世界タイトル戦で、日本初の13戦全勝全KOでチャンピオンベルトをつかんだ。そこから約1カ月、あいさつ回りや故郷沖縄ではパレードにも参加したが、「どこへ行っても、まずはみんなサインを会長にもらうんですよね。僕は隣でこそっとしてますよ」。ここまで濃密に日々を一緒に過ごしたことはなかっただけに、過ごす時間の長さが会長のすごさを教えてくれた。「沖縄では到着した瞬間から、みんな気付くんですよ。東京でも一緒に歩いていると、まずは会長ですから」。

 当の具志堅会長はそんな出来事の連続に、「オレの方しか見ないからねえ。サインする量が多くなったよ。オレまでサインさせられるから」と真顔。弟子の知名度に「まだまだ」と言いながらも、その度胸は買っているようで…。「一緒にテレビに出ると、食われちゃうね。よくしゃべるの。どこに行っても同じペースだから。テレビの話もきてるんだけど、セーブしているの」と、冗談半分にそのキャラを持ち上げた。

 「本業」のボクシングについては、統一戦なども視野に入れている。同会長は「井岡君とやらせたいんだよね」と、WBA同級王者の井岡一翔(28=井岡)の名前を挙げた。比嘉も「やってみたいです。KO記録も更新していきたい」と意欲十分。師匠は13度の連続防衛記録を樹立しているが、頭にあるのは階級を上げながらKOを続けていくという別の道。

 王者になってまだ1カ月。「自分の名前も有名になればいいですねえ」と思いをはせ、「会長は高い壁ですけど」と屈託なく笑うのも忘れなかった。ファイトスタイルに似て、良くも悪くも気持ちをまっすぐに表現できるその性格があれば、きっと多くの人が好きになってくれるだろう。【阿部健吾】