新時代の令和に、バブリーなホストキャラで異彩を放つプロレスラーがいる。宮城・塩釜市出身のプロレスラー愛澤No.1(35)がブレークの予感だ。入場時にはシャンパンを手に登場し、女性ファンと乾杯してからリングに上がる。「シャンパン、シャンパン! シャンパン、シャンパン!」。元ホストの経験を生かしたシャンパンコールで会場を盛り上げつつ、華麗な技を繰り出す。

愛澤はリングでの姿同様、型破りな人生を歩んできた。中学から陸上を始め、仙台工時代には高校駅伝宮城県大会にも出場。1、3年時には東北大会に出場した。スポーツ推薦で石巻専大に入学も、幼稚園の時に塩釜市体育館で見た全日本プロレスへの憧れをどうしても捨て切れなかった。陸上部との掛け持ちで学生プロレスに熱中も結局、陸上は断念。2年時に「闘龍門」の練習生になったが、厳しい練習についていけず2カ月で退団した。挫折にもめげず、05年にみちのくプロレスのテストに合格し、07年にデビューを果たした。

09年の試合中にトップコーナーから場外に落とされて右かかとを複雑骨折。再起のめどが立たず引退した。11年3月の東日本大震災後、たまたま求人誌で見かけた楽天ベースボールスクールのコーチ募集に応募。「未経験者可」を真に受け受験したが、面接官からは「まさか本当に未経験者が来るとは」と驚かれた。それでも「東北の子どもにスポーツを好きになってもらいたい」との熱意が伝わった。

スクールでは楽天OBで現スカウトを務める愛敬尚史氏(42)、鷹野史寿氏(46)らに自らも野球を教わりながら4年間、小学生の指導に携わった。しかし、「夢を持とう」と子どもたちに言いながら、夢を諦めた自分を見つめ直した。「実際に自分が夢をかなえて活躍しているところを見せないと、子どもたちにも夢を与えられない。コーチとして最後の役目だと思った」と現役復帰を決意。今では教え子たちも観戦に来てくれるようになった。

本名・相沢孝之としては、シニアスポーツインストラクターの顔を持つ。仙台市内の高齢者向け介護サービス施設で、座ったままでもできる体操などを教えている。おじいちゃん、おばあちゃんたちから「試合どうだった?」と掛けられる声も励みになっている。

23日には、仙台ヒルズホテル(午後3時試合開始)で行われるみちのくプロレスにも出場予定。プロレスリングDEWAや全日本プロレスにも参戦するなど、活躍の場を広げている。「今はタイトルよりも、全国の人に宮城にはこんな選手がいると知ってもらいたい。そしてたくさんの人に遊びに来てほしい。人を呼べるようなレスラーになって東北を盛り上げ活性化したい」。その表情にはリングで見せるチャラさのかけらもなかった。【野上伸悟】

◆愛澤No.1(あいざわ・なんばーわん)1984年(昭59)生まれ、宮城県塩釜市出身。玉川小-玉川中-仙台工-石巻専大。みちのくプロレスに所属した07年6月16日、岩手・矢巾町民総合体育館大会でデビュー。また大学4年の就職活動中に、みちのくプロレスの滑り止めとして受験したスポーツジムの実地研修が東京で1カ月行われた際に、新宿歌舞伎町でスカウトされホストクラブのアルバイトを経験。菊地毅らの指導を受け、15年11月28日の全日本プロレス仙台大会で復帰。フリーとして活動し、全日本プロレスやプロレスリングDEWAなどに参戦する。得意技は紅蓮(ぐれん)弐式。175センチ、85キロ。