元世界3階級制覇王者八重樫東(36=大橋)の日本人最年長奪取はならなかった。同級王者モルティ・ムザラネ(37=南ア)のV3戦で、2年7カ月ぶりの世界戦。リーチの長い技巧派の王者を崩せずに9回TKO負けした。6度目の世界挑戦で、長谷川穂積の35歳9カ月を上回る36歳10カ月で王座奪取を狙ったが、力及ばず4本目のベルト獲得を逃した。

八重樫にとっては2年7カ月ぶりとなる待望の世界戦だった。スーパーフライ級3試合をこなして4階級制覇を狙っていたが、交渉がまとまらなかった。ムザラネのV2戦はテレビ解説だったが、その後に方針を変更。フライ級で6度目となる「最後と思って」臨んだ世界挑戦だったがはね返された。

17年5月にIBFライトフライ級のV3に失敗した。大橋会長はその日に引退を勧めたが、八重樫はすぐに現役続行を訴えた。会長は「よく考えろ」と言い返したが、練習を再開すると「心を動かされて、辞めろと言えなくなった」と話す。

来年2月には国内規定では定年の37歳となるが、今でもジムで一番練習する。「ボクシングが好きだし、恩返ししたい」と汗を流し続けてきた。通常のジムワーク後も反復横跳び、自転車こぎに体幹トレ。「完全休養はやめた。やることやらないと力は落ちる。歯磨きと一緒」と動かない日はなかった。その努力もベルトには届かなかった。

ムザラネは09年から15連勝中で、2度の防衛はいずれも日本人だった。さらにリーチは予想以上の11センチ差があった。ジャブを突いてのアウトボクサーに対し、中へ潜り込んで激闘に持ち込めるかがカギだった。そのハンディを克服できなかった。

11月に入ってから短期賃貸マンションで単身生活を送った。この試合のために今回は通常1カ月を2カ月に伸ばした。家族思いで知られるが、週末帰宅も1回で電話もしなかった。末娘からは涙声で「ボクシング頑張って」との留守電が入ったが我慢した。2カ月ぶりで家族と無念の対面となった。

◆八重樫東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日、岩手・北上市生まれ。黒沢尻工3年でインターハイ、拓大2年で国体優勝。05年3月プロデビュー。06年東洋太平洋ミニマム級王座獲得。7戦目で07年にWBC世界同級王座挑戦も失敗。11年にWBA同級王座を獲得し、13年にWBCフライ級王座獲得で3度防衛。15年にIBFライトフライ級王座を獲得し、日本から4人目の3階級制覇を達成した。2度防衛。家族は彩夫人と1男2女。160センチの右ボクサーファイター。