女性ボーカルグループ「SPEED」の元メンバーで、自民党の今井絵理子参院議員(37)の長男礼夢(らいむ=16)がプロレスラーデビューを果たした。

所属するHEAT-UP(ヒートアップ)代表の田村和宏(40=TAMURA)と戦い、13分28秒、逆エビ固めで敗れた。先天性難聴という障がいを抱えながら、10月に2度目のプロテストで合格。母も見守る中、大きな1歩を踏み出した。

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倒れても倒れても礼夢は立ち上がった。会場からは、手話で「頑張れ」という意味の両手をガッツポーズする動きで声援を受け、劣勢を何度もはね返した。対戦相手は団体の代表でエースの田村。プロの厳しさを教えるため、容赦はされない。ボコボコにされたが、後半には得意のブレーンバスターやバックエルボーを決めるなど、見せ場を作った。

前日は母と神社に必勝祈願に行ったが、かなわなかった。「悔しい気持ちでいっぱい。もっと強くなって次は倒したい」と前を向いた。会場の隅で観戦していた母は「何があっても見守るしかない。(出て行くのを)グッとこらえていた」と気持ちを抑えながら見届け、無事に終えたことにホッと胸をなで下ろした。

プロレス好きの母の影響で、中学1年から練習生としてジムに通った。今年3月、高校に進学せず、プロレスラーになることを決意。だが、10月上旬の1度目のプロテストは不合格。スクワット、腕立て、腹筋、背筋はパスしたが「縄跳び5分間で失敗3回まで」がクリアできない。再テストは2週間後。本番前日の午前0時近くまで猛特訓しても無理だったが、決してあきらめなかった。

生まれつき耳が聞こえないというハンディがありながら、数々の困難を乗り越えてきた。本番では不屈の闘志でテストをクリア。プロの道を勝ち取った。現在は独り立ちするため、週5日1人で電車に乗ってジムに通う。ジムでは母の提案だった手話通訳も付けず、筆談もやめ、体で技を覚えた。自宅ではスマホのアプリを使ったトレーニングでデビュー戦に備えてきた。

SPEEDで10代から国民的スターだった母。一時は自らの歌も満足に聞こえない礼夢のことを嘆き悲しんだこともあるが、今は違う。夢をかなえてほしいと名付けた愛息だけに「好きな夢が見つかって良かった。バランス感覚をつかめるのに大変だったが乗り越えてくれた。私はただサポートしただけ」と喜んだ。大好きな母の前で、WWE進出という大きな夢への1歩を刻んだ。【松熊洋介】

○…会場は密を避けるため、チケットは収容人数の半分となる200枚の発売だったが、満員札止めとなった。報道陣は10社以上。田村は「礼夢が出ることで、ものすごい反響があった。自分史上最も注目される出来事だった」と驚きを隠せなかった。さらに「もっと礼夢の試合を見てもらいたいと思い、来年の会場をおさえた」と話し、21年9月に約6千人収容のとどろきアリーナ(川崎市)で試合を行うことを発表した。

◆今井礼夢(いまい・らいむ)2004年(平16)10月18日、東京都生まれ。都立立川ろう学校出身。小学生の時に、プロレス好きの母の影響で興味を持つ。中学時代は野球をやっていたが、17年10月ヒートアップジムに入門。今年3月高校進学をせず、プロへの道を選択。166センチ、67キロ。

◆プロレスリング・ヒートアップ 13年1月に代表兼レスラーの田村和宏がプロレスを通して、障がい者支援と青少年育成の目的で設立。所属選手は7人。キッズクラスや学校での指導のほか、清掃や野菜作りの手伝いなども行う。道場の所在地は神奈川県川崎市。