コロナ禍の中、RIZIN(ライジン)は有観客開催にこぎつけた。榊原信行CEO(57)は大会前、「5年間の集大成として、月日を重ねた重さや風格を、みなさんに見せるために最高のカードを準備した」と手応えを口にした。

長く関わっていた総合格闘技のPRIDE(プライド)は経営難で07年に消滅した。自身は関わっていないが、08年旗揚げのDREAM(ドリーム)は13年に活動停止。そんな中、盟友の高田延彦と「世界に通用する格闘技界に戻したい」と、RIZINを立ち上げたのが15年だった。

開催を続けるにあたって「テレビの視聴率を取る」「次世代選手を育成する」「一時代を築いた格闘家の引き際の舞台を用意する」。3つにこだわってきた。

特に地上波のテレビ視聴率には特別な思いがある。「日テレで放送される『ガキの使いやあらへんで』に負けたくない。次に向けても大事。数%でも積み上げて、最後まで悪あがきしたい」と臨んだ。

今大会の全カードの決定は大会1週間前。「ギリギリまで諦めず今できるベストを尽くす」とコロナによる入国制限など諸問題に直面しながら粘り強く交渉を続けた。「15試合全部がガチンコの好カードになるとおなかいっぱいになって、お客さんも疲れてしまう」と、コアなファン以外の興味を引くカードをはさむことも忘れない。元プロ野球出身の新庄氏、藤川氏ら話題性のある人物にも積極的にアタックした。

オープニングマッチは「次世代の選手を育成する」ことを狙い、17歳同士の対戦を組んだ。プロ5戦目のさくらと、プロ初戦の竹林。「未来を感じてもらえるカード。浅倉カンナがそうであったように、時代を引っ張ってもらえるようになってほしい」と、これから羽ばたこうとする女性選手に大舞台の「第0試合」を提供した。

もちろん、ずっと大事にしている「一時代を築いた格闘家に舞台を用意する」という思いもマッチメークに込めた。ミノワマン、所英男、五味ら一時代を築いた40歳代の格闘家たちにもオファーした。

新型コロナの影響による入場者数の制限もあり、運営は厳しいが、那須川天心や朝倉兄弟ら話題性ある選手をそろえ、チケットは完売した。「大みそかに格闘技の魅力を伝える伝道者として、しっかり観客に思いが届く試合をしてもらいたい」。日本の格闘技興行を引っ張ってきた榊原CEOは、熱い思いで32人のファイターを送り出した。【松熊洋介】