WWEが中東で3年連続の女子マッチを開催した。

22日のPPVクラウン・ジュエル大会(サウジアラビア・リヤド)でスマックダウン(SD)女子王者ベッキー・リンチが前王者ビアンカ・ブレア、元王者サーシャ・バンクスの挑戦者2人を迎え撃ち、防衛に成功。女子トーナメントのクイーン・クラウン決勝も組んだ。第15回「WWEの世界」は女性の行動制限が厳しいサウジアラビアで女子レスラーのファイトを組んだ理由に迫る。

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22日にリヤドで開催されたPPV大会。新旧王者が入り乱れた3WAY形式SD女子王座戦を制したのは王者リンチだった。ブレアを場外に排除したバンクスを強引に捕獲して丸め込み、3カウントを奪取した。ヒールらしい勝利を飾ったリンチは試合後に公式SNSを更新し「今夜はタイトル防衛以上のものがあった。今夜はトラッシュトーク(挑発的な言葉)は横に置き、リングで戦った選手に感謝する。家で観戦したファンにも感謝します」と素直な心境をつづった。

サウジアラビアはイスラム教徒が主流で女性の行動制限は非常に厳しい。宗教的に全身を包むアバヤと呼ばれる黒い布で肌の露出を極力抑え、隠さなければならない。つい3年前まではサッカー観戦も禁止されていたほどだ。今回、リンチ、ブレア、バンクスの3人、そしてクイーン・クラウン決勝で激突したゼリーナ・ベガ、ドゥドロップも上下にスパッツ、さらに上半身はTシャツを着用。通常コスチュームではなく、肌の露出を抑えた姿で戦っていた。

それでもリンチは「今夜のリヤドの素晴らしいファンのみなさん、試合全体を通じて熱心な応援をもらい、私のサウジアラビア初試合はとても思い出深いものになりました。世界中の女性の未来に大きな希望を与えてくれたことに感謝します」と自らの試合が中東での女性スポーツ活性化につながることを期待した。

16年途中からWWEでは女子レスラーの呼称「ディーバ(歌姫)」を廃止。男子選手と同様に「スーパースター」と呼び「男女平等」「女性の革新」を掲げてきた。WWEビンス・マクマホン会長の娘で、団体の役員を務めるステファニー氏は22日の大会終了後に「WWE女子は世界舞台で競い合い、決して希望を失わない。クラウン・ジュエル大会も例外ではなかった」などと声明を発表した。

選手以外でも、エッジ-セス・ロリンズ戦のレフェリーは女子審判のジェシカ・カー氏が務めた。19年10月のPPVクラウン・ジュエル大会でレイシー・エバンス-ナタリア戦が組まれ、中東で史上初の女子ファイトが開催された。20年2月のスーパーショー・ダウン大会(ともにサウジアラビア)でスマックダウン女子王者ベイリーが挑戦者ナオミとの防衛戦を制した。3年連続の女子カード開催で、着実に中東に「風穴」を空けつつある。

ステファニー氏は「WWE女子選手たちが世界中にいる何百万人もの子供たちの憧れになることを誇りに思っています」とSNSで意義を強調した。「女性の革新」を掲げるWWEは中東の地でも男女平等への道筋を整備しつつある。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/連載「WWEの世界」)