挑戦者の日本ミドル級3位能嶋宏弥(26=薬師寺)が、国内現役最年長44歳の王者野中悠樹(渥美)に6回1分1秒、TKO勝ちして王座を奪取。過去10戦中8戦はウエルター級、ミドル級での戦いが初めてだった男が、鮮やかな大番狂わせを演じた。

戦績は11戦10勝(5KO)1敗。

能嶋は「自分の距離でジャブを当てて戦うつもりでした。“直線的”に攻めたことが一番、効果的だったと思います」と完勝を振り返った。1回から自分の間合いでジャブを当てた。「ただ出しただけの右も当たって」と、想定外のプラス要素も生まれ、一気に主導権を握った。

3回にはロープ際でダウン寸前に追い込んだ。5回にも王者の腰が落ちる右カウンターをヒット。6回にはワンツーの右でダウンを奪った。真っすぐ飛び込み、王者を真後ろに下がらせ、クリーンヒットがどんどん増えた。「直線的」という戦術は「おやじファイトとかに出ている」(能嶋)ジム会員数人が野中のスタイルを分析、自分のスタイルと総合して「最も効果的なはず」と助言してくれた産物だという。

本来はミドル級(72・57キロ以下)の2階級下であるウエルター級(66・68キロ以下)が主戦場。スーパーウエルター級でさえ、直前の1試合だけ。2カ月前に挑戦が決まってからは「減量」でなく「増量」に苦しんだ。スタミナ作りに走り込むと、一時は67・9キロまでダウン。前日計量では下限体重の「69・9キロ以上」が不安で水を1リットル以上も飲んだ。リミットから約1・7キロもアンダーの「70・8キロ」でパスした。

富山県黒部市で生まれ、高校は富山商、強豪野球部のベンチに入れず、スタンド応援が定位置だった。中京大に進み、選べる部活の「合気道、少林寺拳法、空手、ボクシング」からボクシングを選択。現在は中京大スポーツ科学部で研究補助員として、時給1300円で生計を立てながら、リングに上がる。

試合前は「リング中央からコーナーまで吹っ飛ばされる覚悟でした。でも、ミドルにはミドルの持ち味があるように、ウエルターの持ち味で勝負しようと思っていました」という。今後考えられるウエルター、スーパーウエルター、ミドルという3択に「う~ん、夏はウエルターでそれ以外はスーパーウエルターとか。減量するのは嫌ですから」。趣味がカフェ巡りで「特に抹茶に」目がない“スイーツ・ボクサー”は冗談っぽく言って笑った。