3団体統一ヘビー級王者オレクサンドル・ウシク(35=ウクライナ)が約11カ月ぶりの再戦を制し、初防衛に成功した。

昨年9月に判定撃破した前3団体統一王者アンソニー・ジョシュア(32=英国)の挑戦を受け、2-1の判定勝利を収めた。2月からのロシア軍の侵攻を受け、ウクライナ軍入隊も経験。全国民の期待を背負い、3本のベルトを死守した。また現役引退宣言中のWBC世界同級王者タイソン・フューリー(34=英国)との4団体王座統一戦を熱望した。

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ロシア軍の侵攻で荒廃した母国にささげる勝利だった。持久力十分のステップ、素早いジャブをみせたウシクが、手数で上回って攻め続けた。中盤にジョシュアのボディー攻撃を被弾しても止まらず、最後までペースを握った。昨年9月の初対決は速さと技術で圧倒したが、今回は的を絞らせなかった。初防衛成功後、両手で高々とウクライナ国旗を掲げた。

「この勝利は、国のために、国を守っているすべての人々と軍隊のため。本当にありがとう」。今年2月のロシア軍侵攻を契機にウシクはウクライナ軍のキーウ領土防衛隊に入隊した。今回のジョシュア戦のため、3月には出国を認められて調整に入った。しかし6月、8月と計画されながらコロナ禍もあって延期の憂き目に見舞われた。やっと到達したリングだった。

試合前、最前線の兵士たちと連絡を取り合い、応援メッセージを受け取っていたという。「彼らは手を握り、私の勝利を祈っている。それが私をやる気にさせる」と明かしたウシクは言った。「この勝利は歴史的なことだ。多くの世代が、特に私を激しく倒そうとした回を見ただろうが、私は耐えて別の方法で変えてみせた」と胸を張った。

クルーザー級に続く2階級での4団体統一という野望を持つ。WBC王者フューリーは4月、暫定王者ディリアン・ホワイトを6回TKOで下した後、現役引退を表明。しかし、いまだに王座を返上していない。ウシクは「フューリーはまだ引退していないと確信している。彼も戦いたいと思っているはずだ」と熱望していた。

〈オレクサンドル・ウシク〉

◆生まれ 1987年1月17日、ウクライナ・シンフェロポリ生まれ。

◆アマ戦績 12年ロンドン五輪男子ヘビー級金メダル。アマチュア戦績335勝15敗。

◆プロ戦績 13年11月、フェリペ・ロメロ(メキシコ)で3回TKO勝ちしプロデビュー。通算戦績は20勝(13KO)無敗。世界戦戦績は9勝(3KO)。

◆タイトル 17~18年で開催のワールド・ボクシング・スーパーシリーズ・クルーザー級を制覇。同級で世界4団体統一に成功。

◆髪形 大勝負で母国伝統の戦士コサックのヘア、オセレーデツィに変身。

◆世界最強 老舗専門誌ザ・リング選定パウンド・フォー・パウンド(階級超越した最強ボクサー)ランクは2位。井上尚弥が1位になるまでトップに君臨。

◆サイズ、タイプ 身長191センチの左ボクサー。リーチは198センチ。

〇…ウシクに連敗した前3団体統一王者ジョシュアは涙を流して奇妙な言動を謝罪した。試合直後、ウシクの死守した米老舗専門誌ザ・リング認定、WBAスーパーの2本のベルトをロープ越しに落とした。勝手に控室に戻ろうとしたかと思えば、リングに戻って2分間スピーチするなど不自然な言動が目立った。記者会見では「心から怒っていた。他の誰でもない、自分に。怒ったのは愚かなこと。リングで何を言ったか覚えていない」と泣いていた。