2月の東京ドーム大会で現役引退する武藤敬司(60)が代理人を務める「悪の化身」グレート・ムタが22日、プロレスリング・ノア横浜アリーナ大会で最後のリングに上がった。

盟友のスティング(63)らと夢タッグを結成し、6人タッグマッチに出場。最後は22分23秒、閃光妖術(せんこうようじゅつ)を白使に決めて勝利した。89年に米国で誕生してから34年。ムタが現世にさよならを告げた。

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魔界伝説が完結した。90年9月に首都圏初登場した思い出の地、横浜アリーナ。ムタはその花道で、さまざまな感情が入り交じった最後の毒霧を天に向かって噴射した。96年の新日本東京ドーム大会で凄惨(せいさん)な戦いを繰り広げた白使から、閃光妖術からの体固めで3カウント。試合後に白使の卒塔婆にしたためた文字は「完」だった。

トップヒールでありながらヒーローだった。代理人の武藤は振り返る。「ムタって良い試合をそんなにたくさんやっているわけじゃない。見せ場が入場だけで終わるような試合もいっぱいだった」と。それでも、誰よりも愛された。

技術や身体能力だけでは語れない、唯一無二の存在。何もしゃべらずも、プロレスのあり方をリング上で語り尽くした。「協調性ばかりじゃなくて人を引き付ける部分を磨いていくべきだと思う」(武藤)。後輩レスラーには心の中の「ムタ」を解き放って欲しいと願っている。

89年に米国で誕生。不気味なフェイスペイントと高い身体能力、毒霧攻撃などで一世を風靡(ふうび)した。90年に日本初登場を果たすと92年に新日本のIWGP、02年に全日本の3冠を獲得。96年の復活後はダース・ベイダーやジェイソンなど、試合ごとに変化するラバーマスクとコスチュームでも絶大な人気を誇った。

今年元日にはWWEのスーパースター中邑真輔との夢マッチも実現させた。これで魔界の門は閉じ、武藤も2月で去る。「バイバイ。エブリバディー」と短く締めくくった。それでもムタが放った毒霧は、永久にプロレス界を包み込んでいる。【勝部晃多】

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