“プロレスリングマスター”武藤敬司(60=プロレスリング・ノア)が生涯最後のリングへ、最後の試練を乗り越える。

引退興行の東京ドーム大会が21日に迫る中、武藤の両足大腿(だいたい)部の肉離れが4日までに明らかになった。関係者が取材に応じ、現状とラストリングにかける思いを明かした。死力を振り絞り、開催へ垂れ込めた暗雲を振り払う。

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燃え尽きて灰になりたい。昨年6月の引退発表時にそう話した武藤は今、現役ラストマッチに向けて死力を振り絞っている。関係者によると、再生医療やブロック注射、はり治療を行い、動かせる上半身のみでのトレーニングに励んでいる状況だという。「私生活から本当に引退試合のことしか考えていない」と関係者。満身創痍(そうい)の状態は続くが、その目には、自ら最後の相手に指名した新日本プロレスの内藤哲也(40)との一騎打ちしか映っていない。

先月22日、化身グレート・ムタが横浜アリーナで引退試合に臨んだ際に負傷。同24日に両足大腿(だいたい)部の肉離れと診断された。今年は元日に中邑真輔戦(ムタ)、1月4日に新日本ラストマッチとなった6人タッグ戦と連戦。ハードワークがたたり、大会前から覚えていた違和感は最悪な形で表出した。

今月1日にはK-1の年間表彰式でプレゼンターを務めたが、終始いすに座りながらの対応。同3日、東京・池上本門寺で予定していた「節分追儺(ついな)式」には不参加だった。ノアが同日に公開したインタビュー動画では「歩くのもままならない」と、試合消滅の危機も口にしていた。

引退試合まで残り2週間余り。50万円のVIP席を始めロイヤルシート、アリーナS席は既に全席完売した。コンディションに反してファンの期待は募り、「自分が自分に負けそう。ストレスがたまって仕方がないよ」と、弱気な発言を重ねた。

それでも、天才の根源であるプライドは失われていない。主治医と二人三脚で、来る日に向けて出来ることから取り組んでいる。「レスラーである以上最高のアートを作りたい。最後の最後はこれぞベストバウトだと思われる試合をしたい」とも語った。全てを尽くし、決死の覚悟でその日を迎える。【勝部晃多】