元WBC世界バンタム級暫定王者でWBA世界同級1位の井上拓真(27=大橋)が、兄・尚弥(29=大橋)が見守る前で、世界王座返り咲きに成功した。同級王座決定戦で、同級2位のリボリオ・ソリス(41=ベネズエラ)を12回判定3-0勝ち。元WBA世界スーパーフライ級王者ソリスとの元世界王者対決を制した。

「兄が返上したベルトを取れてホッとしている。兄の弟という重圧は現役の間はついてくる。世界王座に返り咲けて良かった」

5回には相手のひじが当たり、左目尻をカットし出血。ハプニングもあり、圧倒しての勝利とはならなかった。

約3年5カ月ぶりの世界ベルト。1度は世界王座をつかみながらも、プロ初黒星で王座から陥落していた。それが19年11月、WBC同級正規王者ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)戦での判定負けだった。2歳上の尚弥が同じ階級で4団体統一に向けてまい進する中、東洋太平洋バンタム級王者栗原慶太、世界挑戦経験のある和気慎吾、日本スーパーバンタム級王者古橋岳也ら国内の強豪を撃破。バンタム級で東洋太平洋王座の2階級制覇、1階級上のスーパーバンタム級でWBOアジア・パシフィック王座、日本王座を獲得。国内で認められる日本、アジア、世界王座を獲得してきた。

今年1月、尚弥がスーパーバンタム級へ転向を表明し、バンタム級すべてのベルト返上。拓真にWBA王座獲得のチャンスが巡ってきた。「兄がバンタム級にいるうちは世界戦は難しいと思って待っていた。ようやく、です」。現在、井上家には世界ベルトがない状態にあった。さらに尚弥が拳を痛め、WBC、WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン(米国)への挑戦が5月から7月に延期された。「兄にはしっかり治してもらって」と井上家の代表としての威厳を示した。

これで、まず1本目の世界ベルトを獲得した。「王座返り咲きという低い目標だとモチベーションはあがらない」と兄に続き、バンタム級の4団体統一を目標に掲げている。「待ちに待った試合。今度は自分が4団体統一できるように頑張る」。兄と同様、バンタム級で最初にWBA王座を手中にし、井上が兄の背中を追いながら王者ロードを突き進む。

◆1R

開始から両者慎重にジャブを突き合う。序盤にソリスが大振りの右強打を振り回すも井上はしっかりとガード。

中盤の接近戦でソリスの右ボデーブローがヒット。その後は再びジャブを付き合いでお互い有効打なし。微妙なラウンド。手数でソリスか。

【日刊採点】10-9ソリス

◆2R

中盤までお互い有効打なし。ソリスはジャブを突いて前に出るが、井上のガードにさえぎられる。

残り20秒で井上の右ストレートがカウンターでヒットしてソリスのバランスが少し崩れる。

【日刊採点】10-9井上

◆3R

開始から相変わらずジャブの突き合い。中盤にソリスが井上をコーナーにつめて連打も、井上はサイドステップでかわす。

残り40秒で井上の右がヒットも当たりは浅い。手数も有効打も少ないジャッジ泣かせのラウンドに。

【日刊採点】10-9井上

◆4R

開始からソリスが井上をロープにつめてラッシュ。右強打を頭部に決める。流れを変えようと積極的に攻める。

2分すぎに井上の右もヒットしたが、手数で上回るソリスがやや優勢か

【日刊採点】10-9ソリス

◆5R

ソリスが相変わらず前に出て攻める。前半はボディーブローが3発ヒット。井上はガードとボディーワークでパンチをうまく外すが、手数が少ない。

2分すぎにソリスのヒジが当たり、井上は左目尻から流血。再開後もソリスが攻める。

【日刊採点】10-9ソリス

◆6R

ソリスが左フックをヒットさせ、井上をロープにつめて連打も、井上は後続打をボディーワークとガードでかわす。

中盤以降、井上は下がってカウンター狙いに。残り40秒でソリスの左ボディーブローがヒット。有効打の少ないラウンドも前に出て攻めたソリスが優位か。

【日刊採点】10-9ソリス

◆7R

序盤に井上の右ストレートが2発カウンターでヒット。その後の連打でソリスの足が止まる。

中盤以降、ソリスは前進してパンチを振るうガードの上。うまくかわしていた井上は2分すぎにソリスの右を浴びたが単発。

【日刊採点】10-9井上

◆8R

30秒すぎに井上の右ストレートがヒットしたが、ソリスも1分すぎに右を返す。その後はお互いフェイトの掛け合いで手数少ない。

残り30秒、終了間際と井上の右ストレートがクリーンヒット。お互い単発で決め手にかける。

【日刊採点】10-9井上

◆9R

お互いパンチを出しても、ほとんどヒットしない。両者ともディフェンスに優れるためか、ヤマ場のないラウンド。

手数も有効打も少ないが、終盤の井上の左アッパーが唯一の有効打か。

【日刊採点】10-9井上

◆10R

開始早々、ソリスが井上をロープにつめてボディーを連打。その後、井上も左ボディーブローを返す。相変わらずお互いパンチを出しても当たらない展開が続く。

ともに相手のパンチを警戒してか手数も少なく決め手に欠ける。

【日刊採点】10-9ソリス

◆11R

ソリスが開始からパンチを振り回して前に出る。中盤にソリスの右強打がヒットするが、井上は後続打を許さず。その後、井上がロープにつめてボディーブローをヒットするも、これも単発。

両者ともペースを奪えないまま、残り1ラウンドへ

【日刊採点】10-9井上

◆12R

井上×ソリス12回

開始から井上が前に出て右ストレート決める。その後はお互い手数が少なく、クリーンヒットもほとんどなし。終盤にワンツーからアッパーを決めた井上が辛うじてポイントを奪ったか。井上が3-0の判定勝ち。王座奪取に成功した。

【日刊採点】10-9井上

◆井上拓真(いのうえ・たくま)1995年(平7)12月26日、神奈川・座間市生まれ。父真吾氏と兄尚弥の影響で4歳からボクシングを始める。高校2冠後、13年12月にプロデビューし、福原辰弥に判定勝利。15年7月に東洋太平洋スーパーフライ級王座を獲得。18年12月にWBC世界バンタム級暫定王座奪取も、19年11月に正規王者ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)に敗れて王座陥落。21年にWBOアジア・パシフィック・スーパーバンタム級王座、22年に日本同級王座を獲得。身長164センチの右ボクサーファイター。