勝利に飢えている。総合格闘技のRIZINランドマーク5大会が29日、東京・代々木第1体育館で開催される。

秋田・能代市出身でフェザー級(66・0キロ)元王者の斎藤裕(35=パラエストラ小岩)が、1年ぶりの再起戦に臨む。昨年4月、王者・牛久絢太郎(28=K-Clann)とのタイトルマッチで敗戦。今大会では勢いに乗る平本蓮(24=剛毅會)と激突する。斎藤は「勝つだけ。それ以外ないです」と勝負にこだわる。【取材・構成=山田愛斗】

    ◇   ◇   ◇

斎藤は負けたままでは終わらない。昨年4月、挑戦者として臨んだ王者牛久とのフェザー級タイトルマッチは判定0-3で敗戦。自身にとってキャリア初の3連敗を喫した。試合後、「今後はゆっくり休む時間が増える。近い人たちと相談して(去就を)決めたい」と無期限休養を宣言。進退に関する明言を避けていたが、現役続行を決断した。

「自分に納得していないというところが一番にありますよね。それは大きかったです。気持ちがなければ多分、やるというふうにはならなかったと思うんですけど、『あれが最後か?』というのはずっとあって、ちょっと違うかなと思いました」

「答え」を出すことは焦らず、牛久戦後は自分が思うままに過ごした。「しばらくやりたくないなとは思いましたね」と格闘技からいったん距離を置いた。「(試合が)終わってすぐ、もうやらない、試合をしないと決めるよりは、ストレスフリーな生活をして、そこからだなと思いました」。北海道、大分、沖縄に足を運ぶなど旅行を満喫。サウナに入ったり、大好きなラーメンを週2、3回のペースで食べたりと「楽しいしかない」生活で心身のリフレッシュに努めた。

3月3日に平本との対戦が発表されたが、復帰を決めたのは「正式にオファーがあってから」だという。それまでは本格的な練習を控えてきたが、ランニングやスポーツジムに週2回通うなど、軽めの運動は続けてきた。「健康を維持しながら次はいつかな、誰かなと思いながら、その試合の話が来たので、『だったらもう1回やるか』という気持ちになりました」。再び戦うスイッチが入った。

今回は挑戦を受ける立場だ。総合格闘技で30戦近いプロキャリアを誇る斎藤に対し、キックボクシング出身の平本は4戦(2勝2敗)と経験は浅いが、現在2連勝中。「ベテラン対若手」の構図で、対戦の打診があった当初は「『正直、何とも言えないな』という感じでしたが、よくよく考えると、いい相手だな、いろんな意味で注目されるだろうなと」。ツイッター、インスタグラムでフォロワー計約60万人の人気者を倒せばインパクトは大きい。

総合格闘技歴では斎藤に分があるが、平本は10代から立ち技格闘技「K-1」で活躍してきた実力者だ。「強い選手だと思います。もともと立ち技の選手ですし、MMA(総合格闘技)選手とは違った打撃を持ってますよね。それは脅威というか、過去の試合を見ても打撃の強さは見て取れて、MMAに対応してきてるなと」。試合をするたびに進化を続ける24歳を警戒する。

今大会は斎藤の試合以外にも、人気格闘家の朝倉未来(30=トライフォース赤坂)が参戦するなど豪華なカードが並ぶ。チケットは完売。有料で試合を配信するPPVの売り上げも好調だという。

「自然と自分の試合が一番いい試合になると思ってますね。対戦相手もそうだし、自分もその気概を持ってやりたいという気持ちもあるので、結果的に一番印象に強く残る試合にしたいです」

「どうせ決着するなら完全決着で」と、KOか一本勝ちを目指すスタンスに変わりないが、何よりもファンの喜ぶ顔が見たい。

「僕は自分が勝つことで、みんながすごくハッピーな感じになると思っているので、内容もこだわりたいんですけど、結果にこだわって勝つ姿を見せたいですね。それしかないです」

元王者の威厳を示し、約2年ぶりに勝ち名乗りを受ける。

 

同じ勝負師として誇らしかった。野球少年だった斎藤は、3月のWBCで世界一に輝いた侍ジャパンの面々に魅了されたという。各試合を画面越しに観戦。「ダルビッシュ選手だったり、ベテランが若手を引き上げていく感じやチームワークがすごく良くて、本当に日本が誇るメジャースポーツというか、誇らしい気持ちになりました」。一致団結し、逆境をはね返していく姿が頼もしく見えた。

競技は違うが、同じ東北ゆかりの選手には親近感がある。WBCでは岩手出身の大谷翔平投手(28)や佐々木朗希投手(21)が優勝に貢献。「大谷選手は次元が違うというか、すごい選手になりましたね。東北勢の活躍は同じ東北人としてうれしいし、すごく刺激になります」と力を込める。

大リーグでも圧倒的なパフォーマンスを見せる大谷。斎藤が主戦場にする総合格闘技界で例えるなら、世界最高峰の米UFCに参戦し、選手層の厚い花形階級で王座争いに絡むことが近いのかもしれない。

「日本人がアメリカに行き、(激戦区の)ライトヘビー級とかで活躍するレベルの話だと思います。体もすごく大きいし、ライトヘビー級の本当に上位ランカー、チャンピオンクラスという感じじゃないですか。格闘技業界じゃ考えられないですよ。大谷選手はアメリカで立ち位置を確立して素晴らしいですね」

近い将来、果たして「総合格闘技界の大谷」は誕生するのか?

 

◆斎藤裕(さいとう・ゆたか)1987年(昭62)10月8日生まれ、秋田県能代市出身。能代第二中、能代工(現能代科学技術)、日大工学部を経て11年11月にプロデビュー。プロ戦績は29試合20勝7敗2分け。修斗第10代世界フェザー級王者。RIZIN初代フェザー級王者。趣味は銭湯巡り。好きな芸能人は有村架純。大切にしている言葉は「信念」。173センチ、66キロ。