ボクシングWBA、WBC世界バンタム級1位の那須川天心(27=帝拳)が編集長を務める不定期コラム「天心新聞」第4回のテーマは自身の発言の真意を解説します。6月に世界ランカーのビクター・サンティリャン(ドミニカ共和国)との世界前哨戦をクリアした翌日の会見で自身について「パンチ力があるとは思えない。パンチ力はない」と発言。大きな反響がありました。11月に待望の世界初挑戦が待つ今、なぜ異例のメッセージを発したのか。その理由を自らつづります。
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え~、6月8日に世界前哨戦に勝ちまして。今は秋ごろに予定される世界初挑戦に向けて調整している時期。僕はずっと成長期…なんだけど、特に自分を見つめ直せる成長期だと思ってる。試合が決まれば、それに向かっていくけど、今はしっかり基盤をつくる時期になると。前回のサンティリャン戦で出た課題に取り組んでいる感じかな。
そういえば、前回の試合翌日の会見で僕が発言した「僕は他のボクサーに比べてもパンチ力があるとは思えない。パンチ力はないと思う」のコメントに結構な反響があったようで。「パンチ力がない」だけが、ひとり歩きしちゃったところもあるのかな。でも、われながらすげえ良いインタビューだったなと思っている(笑い)。
あの真意を少し話そうかなと。格闘技が分からない人は「え?」って驚いたかもしれないけど、もちろん意図があって言ったし。格闘技ってパワーだと思っている人が多い。腕力で倒しているみたいなイメージを持っている人のために、あえて言ったみたいな。
そもそも僕はパンチ力で勝負していないし、パンチ力で格闘技をやっていない。パンチ力があるから倒せるわけでもないと思っている。それが根本にあるよね。パンチ力の定義はパワーではなく、タイミングとかいろいろなものがかみ合って生まれる。自分でもそこがかみ合えばパンチ力は増すと理解してるし、それを探す作業を今後、していかないといけない。今はずっとそこを練習している。
初めてダウンを奪った試合(24年7月のジョナサン・ロドリゲス戦)の左ストレートもスピード、タイミング、バランスがすべてマッチして倒れた。まぐれではないけど、偶然にできたというものに近い。すべてマッチさせる方法が僕も分かる時と分からない時がある。これを偶然ではなく、必然にしないといけない。
KOを求められているだろうけど、何より僕自身が「倒せる」「倒したい」って求めている。パワーではないボクシングを身につける日々で、磨いている。ただKOだけするボクシングという「型」にはまるのも…。パンチの応酬とか激しく打ち合うとかは違うと思うんで。打ち合いだけがボクシングではないし。危険なスポーツで大変なのは最近、身に染みているところ。「倒せ、倒せ」という意見を聞き入れ、じゃあ例えば負けた後に誰かが何かを保証してくれるわけではない。僕の生き方でやっているだけなのでブレはない。
あとは「パンチ力がない」なんて言っておくと、ファンの人にボクシングの見方の提示ができるんじゃないかと。1度、言っておくことで「そうか~」と見ている人も考えるから。非常に面白いナゾかけになったなと。パンチ力がないと言えば失望的な感覚になると思うし。そう言っておくと面白いな、と。いろいろ意図があった感じ(笑い)。
正直、どんなにジムワークやスパーリングの内容が良かったとしても、試合で出せないと僕は「できた」にならない。あの日のリングで出たものがあの時の自分の実力。ずっと僕を見ている人は「あんなに、うまい戦い方ができるのか」と進化が見えたとは思うけど、もっとできることを知っている陣営の評価はすごく低い。そこはしっかりと受け止めている。
試合未定という今の時期のトレーニングは地味だよね。でも1番、楽しい。自分を知れるというか。ひたすら1カ月間、シャドーボクシングだけやったり。ポジション取り、足の使い方、バランスとか、力の入れ具合とかを全部、合わせていく。できる日もあればできない日もあり、バラツキがある。なぜできているのか、なぜできていないのかを探る作業を毎日している。まさに試行錯誤っていうやつ。
試行錯誤ってマイナス的な感じがあるかもしれないけど、僕は前向きなことだと思うし。考えたり、何かを発見したり、発案したりする時間が楽しい。そういうものがやっぱり大事だと思う。今の時代は「白か黒」「できた、できない」みたいに決めがちだけど、グレーというのが1番、良いなと思う。人生なんて毎日はっきりすることなんてない。でも、それをずっと探していることが僕にとってはすごく好きな作業だし。
以前、読者からもらった「天心新聞」で話してほしいテーマ募集の中で「試合が決まっていない時期に何をやっているのですか?」という質問があったんだけど、今回で少し分かってもらえれば、うれしいなと。こうやって僕も可能な限り、ここで取り上げて応えたいし、引き続きテーマも募集しています。
那須川編集長が「天心新聞」で語ってほしいテーマを募集しています。日刊スポーツの読者に向け「新聞を読む世代の方が僕のことをどう思っているのかも知りたいです。一緒に盛り上げてもらえたらありがたいです」とメッセージ。応募は、専用サイト(https://quiz.nikkansports.com/answer/pc/1219)まで。または、氏名、連絡先、語ってほしいテーマ、ご意見などを明記のうえ、封書、はがきでも受け付けます。〒104・8055(住所不要)日刊スポーツNEWSスポーツ部「天心新聞係」まで。

