<女子ボクシング:WBAダブル世界戦>◇16日◇大阪・よみうり文化ホール◇観衆1000人

 かわいらしさと強さを併せ持つボクシング界のアイドルの誕生だ。“ボクシング界の上戸彩”と言われる宮尾綾香(29=大橋)が、番狂わせで世界王座を奪取した。WBA女子世界ライトミニマム級王者の安藤麻里(24=フュチュール)を、華麗なフットワークで翻弄(ほんろう)。2~5ポイント差をつけて3-0の判定勝ちを収めた。

 「ニューチャンピオン・宮尾綾香」のコールがとどろくと、宮尾は一瞬グッと口を真一文字にしてこらえたあと、涙がこらえられなくなった。大橋会長に「きょうは泣いてもいいんだよ」と声をかけられると、また泣けてきた。「練習でもつらくて、涙ぐんでしまうと“泣くな”って言われてきたのに、きょうはいいなんて…」。

 前日会見で王者に「ぼこぼこにして、“上戸わやや”にしてやる」と言われたが、華麗なフットワークを駆使し「打たせずに打つ」戦法でフルラウンドを走り抜けた。5年前にタイ・バンコクの刑務所で、囚人に囲まれながら世界戦を戦った経験もある。アウェーの大阪でも冷静さを保った。

 ビジュアルとは違い、これまでの道のりは決して華やかではない。認知度の低い女子ボクサーは金銭的に恵まれない。宮尾も週5日、横浜市の区民プールのスタッフとして働く。時間もお金もないため、ジムワーク以外の練習場は自宅前の道路。通行人から不思議な顔をされながら、スクワット、ステップなどを毎日1時間以上繰り返し、持ち前のスピードを磨いた。

 美人の話題性もあり、世界戦の話は、数年前からたくさんオファーがあった。それでも、大橋会長は「実力が付くまでは」と安易な世界挑戦は許さなかった。ジムの男子選手と3分(女子は1回2分)、40秒の休憩というスパーリングをこなし、スタミナをつけた。2月、この日と同じアウェーの大阪で世界挑戦者決定戦を制し、自力で世界戦の舞台を勝ち取っていた。

 「(結婚した)本物の上戸彩さんも幸せでしょうけど、私も幸せです」。2年前に彼氏と別れて以来、ボクシング一筋に打ち込んできた。戦前は「ベルトを取って彼氏も見つけたい」と幸せのダブルゲットを宣言した。次はタイプでもあるプロレスラー佐々木健介似の彼氏を探す。【町野直人】

 ◆宮尾綾香(みやお・あやか)1983年(昭58)8月29日、長野県千曲市生まれ。信州短大卒業後にボクシングを始め、04年7月に実戦デビュー。06年4月に日本ミニフライ級王座決定戦出場も4回TKO負け。JBC認可前の07年4月にタイ刑務所で、WBC世界ライトフライ級王座決定戦に出場も判定負け。今年2月に秋田屋まさえを下し、WBA世界ライトミニマム級王座挑戦権を獲得。154センチの右ボクサーファイター。