春の珍事だ! 東前頭12枚目の千代鳳(22=九重)が、十両以上では史上初めて3場所連続まげつかみでの反則勝ちを収めた。同13枚目の勢(28)に小手投げを食らい、軍配は相手に上がったが、物言いの末にまげをつかまれたと判定され“逆転勝ち”。7勝目を挙げ、勝ち越しに王手をかけた。

 複雑な気持ちで、千代鳳が勝ち名乗りを受けた。負けた勢の地元大阪の客から「うそやろ~」「え~、絶対につかんでないわ~」と、不満げな声が飛ぶ。どよめく館内で、肩を落とす勢も視界に入った。「勢関はがっくりと、うつむいていたんで。申し訳ないです」。ポツリとつぶやいた。

 思わぬ勝利だった。取組前から勢コールが鳴り響き「集中できなかった」。体が動かず、小手投げを食らって前のめりに倒れこんだ。軍配は勢に上がったが、物言いがついた。ビデオ確認も含めた協議の末、勢の左手が、まげをつかんでいたと判定された。“大逆転”の反則勝ちだった。

 史上初のおまけもついた。まげをつかまれての白星は昨年九州、今年初場所に続いて3場所連続。十両以上で過去になかった珍事だが、千代鳳のスタイルが、反則を誘っているとも言える。頭を下げて低い体勢で押し込む相撲で、簡単には前に落ちない。相手はたまらず頭を押さえようとして、まげに手が掛かってしまう。千代鳳も「まあ相撲は負けたけど、勝ちは勝ちなんで。これをいいきっかけにしたい」と、前向きに話した。

 今場所から取組直前の「ホッ」という気合のせき払いを中止。力士会で白鵬から禁止を厳命され、師匠の九重親方(元横綱千代の富士)にも自粛するよう言われていた。その影響も心配されたが、9日目で早くも7勝目。「あと1番です」。次は自分の手でしっかり勝利をつかみ、ホッとひと息つきたい。【木村有三】

 ◆まげつかみ 公認相撲規則で定められた8つの禁じ手の1つ。昨年九州場所から条文を改正し、禁じ手反則第1条2項「頭髪を故意につかむこと」の「故意に」を削除した。規則が定められた55年夏場所以降、十両以上では今回で44度目。39度は平成以降に起きている。勝ちでは千代鳳の3度が最多。嘉風、琴勇輝、玉鷲、富士東が2度で続く。負けは今回の勢と阿覧が最多3度。五城楼、北勝力、日馬富士が2度負けている。平幕が横綱に反則勝ちしても金星とは認められない。

<相撲の禁じ手>

 ▽握り拳で殴る▽頭髪をつかむ▽目またはみぞおちなどの急所を突く▽両耳を同時に両手の平で張る▽前たてみつをつかみ、また横から指を入れて引く▽のどをつかむ▽胸や腹を蹴る▽一指または二指折り返す