大関稀勢の里(30=田子ノ浦)が涙の初優勝を果たした。平幕逸ノ城を寄り切って1敗を死守。結びの一番でただ1人2敗だった横綱白鵬が平幕貴ノ岩に敗れて決まった。

 稀勢の里は、これまで幾度となく悔し涙を流してきた。その中で、本場所の相撲で泣いたのは03年夏場所が初めてかもしれない。三段目で7戦全勝しながら、決定戦で敗れた。その帰り。花道で人知れず涙した。

 その姿を目撃して、慰めた人物がいた。誰あろう、当時の横綱朝青龍だった。「その気持ちがあれば、お前は強くなる」。そう言われて、肩をたたかれた。

 話をしたことなどない存在だった。それだけに驚き、体が震えたという。「うれしかった」。その言葉を糧に再び前を向いてきた。

 昨年、当時のことを本人に聞いた。「ありましたね。覚えていますよ。なかなかないことですから。自分はまだ16歳ですからね。びっくりしました」。

 あれから14年。「昔は悔しいことばかりでよく泣いていたなぁ」。涙の数だけ強くなった。すると「そんな歌もあったね」と笑いながら「もう涙はいいよ」と真顔で言った。悔し涙は過ぎ去った。ただ、今度はうれし涙が訪れた。【今村健人】