大関とりの関脇栃ノ心(30=春日野)が、怪力で白星スタートを切った。東前頭2枚目松鳳山を両上手まわしから豪快につり上げ、寄り切った。かつて故郷ジョージアの民族格闘技チタオバで、優勝賞品の羊を何頭もせしめた取り口を思い起こす攻めを披露。目標の10勝以上へ、視界良好だ。

 激しく速い松鳳山に、栃ノ心がもろ差しを許した。右上手まわしをとったが、1枚で伸びた。だが、そこからが真骨頂。192センチの大男は177センチの相手の肩越しに左手を伸ばし、ガバッとまわしをつかんだ。引っこ抜くようにつり上げた。足をばたつかせ、もがく相手に着地されたが、そのまま強引に寄り切った。「1回下ろした時ちょっとヒヤッとしたけどね。つかまえられてよかった」と、ホッとして笑った。

 故郷ジョージアでも、よく似た形で勝ちまくった。来日前にサンボの欧州王者になった男が、最初に親しんだ格闘技が伝統武術チタオバだ。ノースリーブのジャケットマッチで、背中から落とせば勝ち。「相撲より柔道、サンボに近いね」。大会になるとお祭り騒ぎ、夜通し続くこともあった。「おもしろいよ。酔っぱらいのおっちゃんとかが騒いで。ケンカもよく起こってた」。メインイベントでもある無差別級の優勝賞品は「羊1頭」だった。「7頭か、8頭もらった。担いで持って帰って、さばいて友だちと食べるんだ」-。

 得意の型があった。「背が大きかったから、こうやってね…」。相手の肩越しに帯をつかみ、投げ飛ばす。今は左上手の右四つが得意だが、当時は決まって右上手。ただし帯をつかめば、ほとんど勝った。そこは「まわしを取ったら負ける気がしない」という今と変わらない。

 大関とりへ、目安は今場所10勝以上になる。「初日に勝ったのは、大きいと思いますよ。もちろん、まだこれからですけどね」。初優勝した初場所から、3場所連続の白星発進。弾みがついたのは間違いない。【加藤裕一】