横綱鶴竜(32=井筒)が初顔合わせの西前頭2枚目阿炎(あび、24=錣山)をはたき込み、1敗を守った。自分と対戦できる位置まで上がってきた、錣山部屋の元付け人相手に突っ張りを受け止め、貫禄を見せた。前日の初黒星から一夜明け、自身初の2場所連続優勝へ、再出発を切った。

 熱い思いを封じ込め、鶴竜は勝負に徹した。立ち合いのもろ手突きから、阿炎の突きを何発も受け止めた。最後は相手の勢いをうまくいなして、はたき込み。「今日は考えず、当たることだけを意識した」。松鳳山を立ち合いで見すぎて敗れた前日の一番を反省し、ガムシャラに突っ込んだ。相手は元付け人。「なるべくそういう感情が出ないようにした」と振り返った。

 16年九州場所で、阿炎は付け人だった。十両から落ち、相撲をやめようと考えていた若手を、師匠の井筒親方(元関脇逆鉾)の実弟、錣山親方(元関脇寺尾)から預かった。その場所で3度目の優勝を飾った。「ありがとう」と握手を求めた。阿炎が付け人を離れ、2場所後の17年春場所で幕下優勝を飾った時は、人知れず祝儀を贈った。背中を見せ、気遣うことで「あんなすばらしい人はいません」と感激させ、再び相撲への意欲を取り戻させた。

 土俵では自分の相撲に集中した鶴竜だが、取組後は喜びを隠せなかった。「元付け人とやるのは、僕も初めてですから。付け人で違う部屋というのはなかなかない。でも、いいことですよね」。阿炎が「少しでも成長した姿を見せたかった」と話したことを伝え聞くと「いや、それは(自分と)当たる時点で、そこまで来たということです」と言い、うれしそうに笑った。

 痛恨の初黒星から、連敗を阻止。4勝1敗で序盤戦を終えた。「やったことのないことへの挑戦」と掲げる今場所の目標は、自身初の2場所連続優勝。かわいい“弟子”からの白星が、再スタートに弾みをつけた。【加藤裕一】