8場所連続休場から復活を目指す横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、連勝発進した。22歳の小結貴景勝の攻めを、しのぎ続けて逆転の突き落とし。取組前まで連敗中で、通算1勝2敗と苦手としていた新鋭を退けた。元横綱武蔵丸(現武蔵川親方)と並ぶ、歴代7位タイの幕内通算706勝目となった。横綱、大関は今場所初の安泰となった。

場内は悲鳴に次ぐ悲鳴で騒然となった。稀勢の里は立ち合いから、貴景勝の突き、押しで押し込まれた。直後にいなされ、前のめりになると、すかさず貴景勝ののど輪を受けた。だが膝を曲げ、腰を落としていた分、二の矢、三の矢にも動じない。半身になって右足を俵にかけ、10歳下の攻めをしのぐと、相手の左のど輪をはらい、そのままの流れで突き落とした。割れんばかりの歓声の中、1人涼しい顔で勝ち名乗りを受けた。

9秒3の取組は、ほとんどの時間が攻められた。それでも「集中してやりました」と、冷静に対応した。瞬時の対応の連続は、懸念された相撲勘の衰えへの不安を、自信に変えられる内容。下半身にも粘りが出てきた。何よりも進退を懸ける場所で、世代交代を印象づける黒星を喫することなく、若手の壁となる力が健在だと示す白星だった。

この日の白星は、武蔵丸と並ぶ幕内通算706勝目だった。武蔵丸が引退した03年11月の九州場所から1年後。入れ替わるように、04年九州場所で新入幕したのが稀勢の里だった。交わりそうで交わらなかった先輩横綱に追いついた。元武蔵丸の武蔵川親方は「稀勢の里についてはノーコメント」と話すだけ。同親方自身も6場所連続休場後、進退をかけて出場した場所中に、現在の稀勢の里と同じ32歳で引退。周囲の声に、振り回されてほしくない思いは誰よりも知っている。そんな期待も、土俵際、最後の最後に背中を押した。

3日目は7月の名古屋場所で優勝次点だった、24歳豊山の挑戦を受ける。初顔合わせの若手だが「しっかりと集中してやります」。まだ、世代交代は許さないつもりだ。【高田文太】