無給生活からオサラバする日が近づいてきた。関脇経験者で西幕下筆頭の豊ノ島(35=時津風)が、6日目にして早くも、今場所の4番相撲に十両の土俵で登場。三役経験者同士の対戦で、東十両14枚目の常幸龍(30=木瀬)を上手投げで破り4連勝。再十両の座を有力にした。

最初の取組では寄り立てて体を預けたが、相手も必死に突き落としで逆転を狙った。軍配は豊ノ島に上がったが、物言いが付き協議の結果は取り直し。その一番は、左をのぞかせ突進した豊ノ島が、最後は上手にかかったその左からの豪快な投げで、常幸龍を裏返し。大きな4勝目を手にした。

花道を引き揚げて支度部屋に入る直前、通路の壁にタオルをあて大粒の涙を流した。「(昇進は)まだ分からない」とその後の取材対応で話したが、無給生活が続いた2年間の幕下生活が、脳裏をのぎったのだろう。本人にすれば「確信」の涙だった。

涙を流した理由を問われると「泣くつもりはなかったけどホッとして…。体が急にそうなった。ケガをして2年間、必ず(関取として)戻って、うれし涙を流したいという思いだったので良かった」と気持ちを込めて話した。取り直しとなり塩を取った白房下。そこで西の花道奥を見ると、同郷の後輩で十両の千代の海(25=九重)が、胸にこぶしを何度もぶつけ、自分を鼓舞してくれているように見えた。「自分にやってくれたのかな、と思って」と発奮材料にした。取組後、その千代の海に意図を確認。やはり先輩を励ますものだったと聞いた。「本当なら自分の部屋(時津風部屋)に入れたかったぐらい付き合いはある」という後輩に後押しされての白星でもあった。

場所前には、勝負の神さまとして知られる茨城・鹿島神宮を参拝。先場所前、沙帆夫人が必勝祈願に訪れたため、勝ち越しの報告と今場所の勝ち越しを祈った。「ふだんは照れくさくて言えないけど、嫁と娘に感謝です。ケガで何度もやめようと思った。1人だったら(現役は)続かなかったと思います」と、この日ばかりは勝負師の一面から、一家の主に表情を変えて話した。

2年前の7月、名古屋場所前の稽古で左アキレス腱(けん)を皮下断裂。関取の座は翌秋場所の東十両8枚目を最後に、以後は2年間、幕下生活が続いた。「正直、こんなに時間がかかるとは思わなかった。やめようと思うたびに、娘に『相撲をやめないで』といわれた」と6歳の長女希歩ちゃんにも感謝した。

十両への昇格は、現状では確定していない。今後の十両からの陥落者数、幕下上位の成績次第で、見通しが立つのは場所の後半になる。ただ、この日の4勝目で再十両に大きく前進したことは間違いない。