初の一人横綱として臨んだ稀勢の里(32=田子ノ浦)が、痛恨の黒星発進となった。小結貴景勝にはたき込みで敗れた。今場所は白鵬、鶴竜の2横綱が休場。9月の秋場所で9場所ぶりに皆勤して10勝5敗と、復調気配を漂わせた直後に、優勝争いが求められる状況となっていた。場所前の稽古は順調で、優勝宣言まで飛び出していただけに、落胆の色は隠せなかった。

前のめりに倒れ込み、土俵につかんばかりの顔を、悔しさでしかめた。この日の幕内取組全20番中、最長となる21秒4の熱戦。立ち合いで右を張った稀勢の里は、運動量の多い貴景勝をつかまえにかかった。だが左右に動かれ、下から突いてくる相手を突き放して対抗。立て続けの突き、押しにもバタバタしてしまう悪癖は出なかった。だが、過去2勝2敗の難敵。先手を許すばかりで、最後は右からの突きをいなされ、そのままはたき込み。苦い一人横綱デビューとなった。

支度部屋に戻ると「(はたき込みは)タイミングがはまってしまったか」という質問などに、2度「そうですね」と答えた以外は無言だった。これで横綱として出場した7場所中、黒星発進は実に5度目。過去4度はすべて途中休場に追い込まれている。だが白鵬、鶴竜不在で優勝争いが義務づけられているような状況は初めて。一人横綱の重圧が一段と増すことになる。

この日の朝稽古は非公開だった。公開されていた弟弟子の大関高安が稽古を終えると、シャッターが下りた。すると、直後に閉ざされた稽古場から、四股を踏む音が聞こえた。関係者によると、稀勢の里が基礎運動などで調整したという。9場所ぶりに皆勤した先場所と同じく、朝稽古を非公開にして集中力を高めた。

日本出身としては03年初場所の貴乃花以来、16年近く遠ざかっていた一人横綱だった。貴乃花は同場所中に引退。昨年の稀勢の里の昇進は、その時以来の日本出身横綱の誕生だった。期待感の大きさは分かっているし、それに応えるように6日には、今場所の目標を「もちろん優勝です」と宣言。心身共に充実-、のはずだった。土俵下で審判として見守った師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)は「落ち着いて取ることができていたけど、張られて上体が起きてしまった。体は動いている」と、収穫もあったことを強調。敗れても胸を張って引き揚げた、これまでとは違う稀勢の里の姿に、ファンは「残り14連勝だ」などと、期待の声を掛けていた。【高田文太】