関脇貴景勝(23=千賀ノ浦)が、大関復帰へ好スタートを切った。112日ぶりに本場所の土俵に立ち、前頭大栄翔との突っ張り合いの末、最後は突き落としを決めた。相手のいなしに崩されながら、大関から陥落する要因となった右膝で耐えた。

大関返り咲きに必要な10勝以上へ、現行のかど番制度となった69年名古屋場所以降、過去に1場所で復帰した5人6例では初日で黒星を喫したケースはないだけに、価値ある1勝となった。

   ◇   ◇   ◇

息を切らしながら、行司が向ける軍配を見つめた。新大関として臨んだ夏場所の4日目、5月15日以来の勝ち名乗り。寄り切った際に右膝を負傷し、苦痛の表情を浮かべたあの日から約4カ月、テーピングも施さず土俵に君臨した。「相撲を取れる喜びを感じながらやろうと思っていた。自分の仕事が帰ってきた感じ。後悔するような相撲は、取りたくなかった」。感情の波を静めるように、大きく息を吐いた。

敗戦を覚悟した。突っ張りの応酬。攻撃的な突き相撲にひるまないことだけ意識した。大栄翔に左に回り込まれ、体勢を崩したままはたきを食らうと、右手が土俵に触れかけた。「正直、負けたと思った」。救ったのは2場所連続の休場要因となった右膝。「脳がしっかり回転して体が反応してくれた」と、俵にかかりながら右膝で踏ん張って持ち直し、距離を取って突っ込む相手を左から突き落とした。

「膝はもう治っている」。場所前から強調し続けてきた言葉に、確かな説得力を持たせる相撲内容を披露。約4カ月、埼玉栄高時代から診てもらっていた膝専門のトレーナーの指示を仰ぎ、治療とリハビリに専念してきた。「どの世界にも専門の人がいる。それを信じてやってきた」。先輩の妙義龍ら膝を負傷した同校相撲部OBを、全員土俵に復帰させたという腕前を信頼。患部に負担をかけない形で、右膝周辺の筋肉を強化してきた。

この日は初場所から使用していた銀色の締め込みではなく、初優勝した昨年九州場所で着用した紫の締め込みで臨んだ。「大関をつかむ前、毎日必死でやっていた昔の自分を思い出すつもりだった」。過去に1場所で復帰した5人6例は、いずれも白星発進。貴景勝の復活劇が始まる。【佐藤礼征】

▽観戦した花田虎上氏(元横綱若乃花) 貴景勝はフットワークも、ちゃんと残ることができたところも良かった。押し相撲なので連勝して、乗っていけるかどうかがポイントになる。