2度目の優勝へ1敗も許されない大関貴景勝(23=千賀ノ浦)が、出血を伴う激しい一番を制して、2敗を死守した。関脇高安のかち上げを食らいながら、いなしを交えて下から突き起こし続けた。豪栄道の陥落により、来場所は1人大関となることが確実の23歳が、看板力士として千秋楽まで場所を盛り上げる。正代と徳勝龍の平幕2人は、1敗を守った。

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貴景勝が勝ち名乗りを受けて手刀を切ると、右の鼻からツーッと血がしたたり落ちた。「高安関と自分がやって、激しい相撲にならないわけがない」。出血くらい、覚悟していた。

立ち合いでかち上げにきた高安の右肘は、貴景勝の顔付近に向いていた。「気持ちでひるんだら負け。向こうは何でもやってくる」と心に刻み、直撃しても構わず前に出た。いなして張って、下から起こして…。最後は横向きにして押し出し「夢中でやっていた。気持ちと気合だけ。朝から準備だけはやってきた」と、力強く言った。

賜杯レースの先頭を走る2人の結果は、取組に備える支度部屋内で自然と耳に届いた。気持ちの変化は「全くない」。14日目は負けた時点で優勝を逃すが「硬くなる必要はない」と自らに言い聞かせた。

1差で追いかける展開だが、周囲の期待は高まる。師匠の千賀ノ浦親方(元小結隆三杉)は前日12日目の取組を終えると、優勝時に祝勝会で使う鯛を発注。御嶽海に優勝決定戦で敗れた昨年秋場所は、事前に用意していた鯛は煮付けにして師匠と部屋の数人で寂しく食べただけに、千賀ノ浦親方は「今度はお披露目できるといい」と、願うように話した。

支度部屋で報道陣の取材対応を終えると、2日連続で座敷の上に大の字で寝転がり、集中を高めるように呼吸を整えた。鼻血は止まっている。「不安材料を消して、消して消して消して。それだけを意識して土俵に上がる」。3人に絞られた優勝争い。三役以上で唯一加わっている若き大関は、優勝への意識を一切示さず、準備の重要性を説いた。【佐藤礼征】