幕尻の西前頭17枚目徳勝龍(33=木瀬)が、記録ずくめの初優勝に王手をかけた。平幕で1敗同士の正代との直接対決を制し、単独トップに立った。2敗の大関貴景勝が敗れ、優勝争いは1敗の徳勝龍と2敗の正代に絞られた。千秋楽は大関貴景勝との対戦が決まった。千秋楽結びに平幕が出場するのは昭和以降3度目で、幕尻が登場するのは史上初となった。優勝なら幕尻は20年ぶり史上2度目、奈良県勢は98年ぶり、再入幕は史上初、木瀬部屋でも初となる。

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劣勢に回ったように見えた徳勝龍だったが、左を差したのも、右の上手を取ったのも、先手を取ったのは徳勝龍の方だった。やはり攻めの姿勢を貫いた方が勝つ。徳勝龍の良さは、腹が出ているわりに器用な相撲が取れること。左右から突けるし、丸い土俵をうまく使えている。相手にとっては、つかみどころがないタイプだ。さらにこの直接対決では精神面の違いも出たと思う。三役経験もあり番付上位の正代には「勝ちたい」「勝たなければいけない」という硬さがあったと思う。一方の徳勝龍は幕尻の強みで、失うものはないという怖いもの知らず。まさに無欲の勝利だった。さて千秋楽。幕尻が出場力士の中で最高位(貴景勝)と結びの一番を取るという、大英断ともいえる割が組まれた。優勝決定戦の可能性も残される。上位陣が不在や不振の中、最後まで相撲ファンを楽しませてほしい。(高砂浦五郎=元大関朝潮・日刊スポーツ評論家)