熊本出身力士として初優勝を飾った関脇正代(28=時津風)の地元・宇土市民体育館では27日、パブリック・ビューイング(PV)が行われ、見守った約250人が喜びを爆発させた。

鶴城中で正代と同級生だった門内一樹さんは25歳で亡くなっており、彼の遺影を抱えた母親が声をからす姿もあった。16年の熊本地震、今夏の甚大な豪雨災害からの復興を目指す地元へ、勇気を与える優勝になった。

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関脇正代が天国の親友の力を後押しに、初の賜杯を手にした。歓喜にわく中、中学時代の級友、門内さんの遺影を抱えた母親は、涙が止まらない正代の母理恵さん(56)と対面。2人とも感極まった様子だった。3年半前に息子を亡くしたといい「中3で体の大きい同士、中学卒業後も高校まで交流が続いていた。今まで家で応援していたが、落ち着かず、会いに来た。(息子には)優勝したよと伝えたいです」と話した。

地元からの熱烈な応援は日ごとに増えた。26日のPV観戦者は、100人以上だったが、この日は正代の取組が近づくにつれ、準備された100席では足りず、体育館の外で立ち見も出るほど、大盛況の約250人に膨れあがった。

正代が土俵に上がると大太鼓が鳴り響く中、「正代コール」が起こり、優勝の瞬間はお祭り騒ぎになった。父巌(いわお)さん(60)や理恵さんをはじめ、後援会関係者や地元相撲クラブの子供たちが万歳した。だれもが立ち上がり、抱きあって喜んだ。祝砲の花火が20発も打ち上げられ、同体育館前には手づくりの「正代関 優勝おめでとう」と書かれた幕が飾られた。

巌さんは、息子から寄付された浴衣の生地で作られた黒マスクと法被姿で声援を送り「感無量です。ホッとした」。取組前に「自分の子どもじゃないみたい。別世界のような、距離が遠い感覚でいる」と表現した理恵さんは、初優勝に「こっちが緊張しました。よく頑張った。素晴らしい」と声を弾ませた。今夏に九州を襲った豪雨災害にも触れ「被災地の人も応援してくれていると聞いている。喜んでもらえたと思います」。4年前の熊本地震など災害から復興を目指す人々にとって、試練を乗り越える力となりそうだ。

理恵さんは今場所中、携帯電話のLINEで激励し続けた。正代と会う時には「おめでとう、頑張ったねと伝えたい」。実家の玄関に「勇往邁進(ゆうおうまいしん)」と刻まれた竹が飾られている。理恵さんが「素直に小学校から相撲一色だった」という正代。勇往邁進の言葉の通り、恐れることなく実直に目標へ突き進み、夢をかなえた。

時期は未定ながら優勝パレードを予定している。宇土市役所から同体育館まで約1キロで、同体育館での祝勝会も企画する。元松茂樹市長(55)は、新型コロナウイルスの影響を鑑み「タイミングの問題はあるが、明日、明後日に(正代の)部屋と相談し、早ければ10月中旬にも行えれば」と話した。【菊川光一】