東前頭6枚目宇良(29=木瀬)が、自身初の結びの一番で魅せた。横綱照ノ富士(29=伊勢ケ浜)と1分32秒に及ぶ大熱戦。上手投げに屈したが、業師らしく肩すかしや足取り、最後はブリッジ姿勢で粘るなど会場を沸かせた。負けはしたが、新横綱に今場所最も長く相撲を取らせて苦しめた。

ケガなどで一時は序二段まで番付を落とした苦労人2人には、会場から盛大な拍手が送られた。

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勝負あり。誰もがそう思った瞬間、宇良が驚異的な粘りを見せた。照ノ富士の上手投げを食らうも、右下手を離さず強い体幹でブリッジ姿勢を保った。最後は背中から落ちたが、会場はどよめいた。時間にして1分32秒3という大熱戦に、観客からは盛大な拍手が起きた。「全然かないません。ものすごいパワーでした」と素直に完敗を認めた。

自身初の結びの一番。1つ前の取組で大関貴景勝が気迫の相撲を見せて「会場が温まっていた」。盛り上がる観客を前に緊張して迎えた一番で、業師があの手この手で新横綱に挑んだ。立ち合いで差した右をきめられたが、左右に動いての肩すかしで揺さぶった。右腕はきめられたまま、再度の肩すかしも不発。足取りも決まらない。1度距離を取ってにらみ合い。再度ぶつかり、もう1度足取りにいくも決まらない。土俵中央で制止し、右を差して下手を取った。勝機を探る中、ついに照ノ富士に左上手を取られた。するとマスク越しの観客からは、大きなため息が漏れた。

「言いにくいですけど、上手を取られた時にため息がのしかかりました。ちょっと落ち込みましたね。これからだと思っていたので。諦めてなかったから」と苦笑。「いろいろ仕掛けさせていただいて、どれも横綱に通用しなかった。すごい強いな」と振り返った。

ともにケガなどで一時は序二段にまで番付を落とすも、幕内に戻ってきた苦労人だ。周囲から比べられがちだが「格が違います」と謙遜。ただ、自覚はある。この日の声援やため息も、注目されているからこそ。「(ため息も)プラスにとらえている。応援してくれているからこそ。盛り上がりも落ち込みも、今日は特に感じました」と観客の期待感を再確認した。

17年名古屋場所の日馬富士戦以来4年ぶりの横綱戦は、2度目の金星獲得とはいかなかった。それでも「結びで取れたのはうれしい」と笑顔。4勝6敗となったが勝ち越しを諦めるわけにはいかない。「上位は厳しいですね。最後まで取り切れるように頑張ります」。横綱を今場所最も苦戦させた業師は、残り5日も全力を尽くす。【佐々木隆史】