勝負を決めた投げに、照ノ富士のうまさが凝縮されていました。まず左を差しても無理に出ず、北勝富士を引っ張り込んで右上手を取りに行きました。すぐには取れず2回目はフェイント気味にそして感覚を測っていたかのような3回目でした。相手の神経を右の方に集中させることで腰を引かせ、そのタイミングを見計らっての下手投げが鮮やかに決まりました。

最初から強引に投げを打っては振り回すだけで四つも取れる北勝富士に苦戦したかもしれません。無理に行かなかった精神的な落ち着きと歴代のモンゴル出身横綱と比べても優れている技術の高さが詰まっていました。稽古場で教えられた師匠の技術が身に付いているのでしょう。

優勝争いは御嶽海が1差でリードですが、それは数字上のことで私見では横綱有利とみます。スキが見当たらないからです。目覚めさせたのは6日目の玉鷲戦の黒星で、これを境に6日目までに何番かあったスキのある相撲がなくなりました。負けて覚える相撲かな-を場所中に実践し、自分の相撲を見直せるのもすごいことで、今はスイッチが入った状態です。御嶽海は相当の力を発揮する必要がありますが、結果はどうあれ場所を盛り上げられるかは御嶽海にかかっています。そんな責任も乗り越えた先に大関は待っています。(元横綱若乃花 花田虎上・日刊スポーツ評論家)