過去の実績で大きく上回る相手にも、現役東大生の須山は恐れることなく向かっていった。立ち合いから鋭い踏み込みで圧倒。前相撲初日、2日目で見せていた組み合う形ではなく、激しい突っ張りを選択。「勘ですね」と攻め方を変えて「気合を入れて突っ張ろうと思っていた」。今関に反撃する間を与えず押し出した。

9人が土俵に上がっている前相撲で3連勝。一番出世を決め「良かったですね」と一言。須山らしく、いつものように淡々と答えた。相手は日体大副主将として昨年の全国学生選手権団体戦で優勝に導いた立役者。アマチュア時代に対戦経験はなかったが、須山は「勝てるか分からなかったが、勝とうと思って土俵に上がった」。難敵にひるむことなく、向かっていた。

新弟子のうれしい活躍の知らせに、師匠の木瀬親方(元前頭肥後ノ海)は「えー、勝ちましたか」と驚きを隠せない様子だった。突っ張りで攻めたことには「器用なことやりましたね」と評した。「本人にはプレッシャーかけたくなかったから知らん顔をしていましたけど、今日の相手は大学でも活躍して強いと聞いていた。3連勝は予想してなかったから、びっくりしている。大したもんだ」とたたえた。

今場所8日目には前相撲を取った須山ら新弟子の新序出世披露がある。師匠や部屋の兄弟子の関取らの化粧まわしを締めて土俵に上がるのが通例となっており、木瀬親方は「(幕内の)宇良や志摩ノ海がいるからね。帰ってから本人に聞きたい」と話した。

東大で出合った相撲にのめり込んだが、学年が上がるにつれてコロナ禍で満足に稽古を積めなかった。「もうちょっと強くなれたかな」との無念さが、プロ入りを目指す原動力になった。3年だった今年3月に卒業単位取得のめどがつき、4年生での角界入りを決意。以前から交流のあった木瀬部屋の門をたたいた。

前相撲を終えても、須山は余韻に浸ることもない。「来場所に向けて頑張ろうと思います」と気を引き締めた。【平山連】

◆須山穂嵩(すやま・ほたか)1997年(平9)9月23日生まれ、埼玉県ふじみ野市出身。埼玉・市浦和高から1年浪人し、慶大に入学。バンドサークルに入る学生生活だったが、2年連続で受験していた東大への思いを捨て切れず、大学1年の冬に3度目の挑戦で合格。東大入学後、相撲部の見学に行ったことでのめり込む。現在は文学部哲学科に在籍。趣味は読書、散歩、キャンプ。180センチ、104キロ。

◆前相撲 新弟子検査に合格した力士や、けがなどで番付外に降下した力士が取る相撲。通常は本場所の3日目から行われる。先に3勝した力士から抜けていき、抜けた順に翌場所の番付の序列が上位となる。本場所8日目に前相撲を取った新弟子の新序出世披露が行われる。前相撲で規定の勝ち星を挙げ翌場所から番付にしこ名が載る権利を得ることを「一番出世」という。