大相撲界に、令和の怪物が現れた。幕下15枚目格付け出しデビューの落合(19=宮城野)が、7戦全勝で幕下優勝を飾った。風賢央との全勝対決に臨み、鮮やかな突き落としで制した。幕下15枚目格付け出しでの全勝優勝は、2006年夏場所の下田に続く2人目。所要1場所の「史上初&最速」での十両昇進へ前進した。場所後の25日に行われる春場所の番付編成会議で審議される。

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力士になって間もない19歳が、大横綱の期待に結果で応えた。落合が7戦全勝優勝で史上初となる所要1場所での十両昇進へ前進した。今月28日に引退相撲を控える師匠の元横綱白鵬の宮城野親方から場所前に言われた。「(自分が)まげ姿のうちに、新十両会見に同席したい」。プレッシャーはあったはずだが「デビュー場所が楽しかったです」。髪は丸刈りが少し伸びた程度。まだ慣れない所作も練習中だが、堂々たる姿で大物感を漂わせた。

優勝のかかる一番も冷静だった。立ち合いで中大出身の風賢央に右の張り差しをかまして出足を止める。すかさず得意の左四つの体勢に持ち込み主導権を握ると、強烈な突き落としで相手を土俵上に転がした。「相手が一瞬腰を引いたので突き落としを狙いました」と会心の攻めだった。この日の場所入り前には宮城野親方から「相撲のことだけを考えて、相撲バカになってこい」とハッパを掛けられた。親方からの心強いアドバイスも力に変えた。

2人の兄の影響でサッカーをしていたが、父勝也さんに勧められて鳥取・成徳小4年から相撲一本に絞った。幼い頃から足腰は強く、50メートル走6秒台後半の快足。球技系の運動部員たちにも走り負けない持久力も兼ね備えていた。持ち前の運動神経は相撲に生かす。鳥取西中、鳥取城北と全国の舞台で活躍し、磨いた押し相撲を武器に2年時の20年、3年時の21年度には高校横綱に輝いた。

高校卒業後は回り道を強いられた。悩まされた肩の治療に専念するために角界入りを1年遅らせた。「手術をして思うように体が動かなくなって、落ち込んだ時期もありました」。華々しいエリート街道を歩んできただけに挫折ともいえたが、前を向いた。母校の近くで1人暮らしをしながら、朝はリハビリに行き、昼はジムでトレーニング、夕方からは母校で高校生たちと一緒に稽古。「強くなるための生活をしてきた」と再起へ、地道な努力を続けた。

父の会社である「有限会社野田組」に所属し、昨年9月の全日本実業団選手権に優勝したことで幕下15枚目格付け出し資格を得た。宮城野部屋入門の決め手となったのは、高校時代に受けた師匠からの「俺が教えるから、俺のところに来い」との言葉だった。引退相撲を前に届いた愛弟子からの吉報に「これ以上のプレゼントはない」と同親方。デビュー場所で底知れぬ実力を示した令和の怪物への期待は高まるばかりだ。【平山連】

◆落合哲也(おちあい・てつや)2003年(平15)8月22日、鳥取・倉吉市生まれ。小学生の時にサッカーに打ち込み、ポジションはFWとGK。父勝也さんに勧められ、鳥取・成徳小4年から相撲一本に。鳥取城北高2、3年時に高校横綱。モットーは「土俵の上で強く、土俵を下りたら優しい力士」。179センチ、156キロ。得意は突き押し、左四つ、寄り。

◆幕下付け出し 学生、アマ時代に実績を残した力士が入門する際、デビューする地位を優遇する制度。通常は前相撲をへて序ノ口に番付されるが、実績によって三段目100枚目格付け出し、幕下60枚目格付け出し、幕下15枚目格付け出し、幕下10枚目格付け出しとある。落合の幕下15枚目格付け出しの条件は全日本選手権、全国学生選手権、全日本実業団選手権、国体(成年男子)のいずれかでの優勝。落合は全日本実業団選手権を制した。

<幕下付け出しアラカルト>

◆付け出し 学生、アマ時代に実績を残した力士が入門する際、デビューする地位を優遇する制度。通常は前相撲をへて序ノ口に番付されるが、実績によって三段目90枚目格付け出し、幕下15枚目格付け出し、幕下10枚目格付け出しとある。

◆幕下15枚目格付け出し 過去に19人。条件は全日本選手権、全国学生選手権、全日本実業団選手権、国体(成年男子)のいずれかでの優勝。落合は全日本実業団選手権を制した。デビュー場所を7戦全勝で優勝したのは過去に日大出身で06年夏場所の下田(のち若圭翔=追手風)。翌場所は西筆頭に据え置かれて2勝5敗と負け越した。結局、関取には上がれず、16年春場所を最後に引退した。

◆全勝で十両昇進 過去に幕下付け出しから無敗で十両に昇進したのは元横綱輪島、元大関武双山(現藤島親方)、元大関雅山(現二子山親方)の3人だけ。日大出身の輪島は60枚目格付け出し7戦全勝→東8枚目7戦全勝。専大出身の武双山は幕下付け出し7戦全勝→東8枚目7戦全勝。明大出身の雅山は幕下付け出し7戦全勝→西6枚目7戦全勝。

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