大関経験者で西十両12枚目の朝乃山(28=高砂)が、初の十両優勝を飾った。千代の国を盤石の寄り倒しで1敗を死守した。2敗で追っていた金峰山が敗れたために決まった。

この日は富山商高の恩師、浦山英樹さんの命日。節目の日に優勝という結果を出し、新型コロナウイルスのガイドライン違反で出場停止中だった21年九州場所以来となる約1年半ぶりの再入幕に前進した。幕内復帰を確実にするためにも、千秋楽も勝って1敗を守る。

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初の十両優勝を決めた朝乃山にとって、1月21日は特別な日だった。母校の富山商高相撲部監督の浦山英樹さんの命日。6年前、40歳の若さで亡くなった恩師に朗報を届けた。「1つでも恩返しができたら良いなと思っています。白星が取れて良かった」と感慨深そうに言った。

執念だった。千代の国の突き落としで1度はよろめいたが、こらえて立て直す。右を差して土俵際まで押し込み、相手の粘りにも動じず寄り倒した。その後、2敗で追う金峰山が平幕の剣翔に敗れたため、千秋楽を待たずして優勝が決まった。

相撲を本格的に始めた中学時代から、亡き恩師の浦山さんを師と仰ぎ、得意の右四つを徹底的に磨いてきた。中学時代に左肘を負傷して相撲を辞めようと思っていた際には「富商(富山商高)に来い。俺が強くしてやる」と声をかけられ、近大時代は角界入りの背中を押してもらった。

心の支えだった恩師は17年1月、がんのため40歳の若さでこの世を去った。遺族から託された遺書には「(本名の)石橋、お前はよく相撲を頑張っている。俺の誇りだ。横綱になれるのは一握り。お前にはその無限の可能性がある。富山のスーパースターになりなさい」。病気の影響で震えた文字に熱い思いがこもっていた。

そんな亡き恩師の願いを、新型コロナウイルスのガイドライン違反により裏切った。6場所出場停止から復帰する昨年の名古屋場所前の6月下旬に法要で富山に一時帰省すると、浦山さんの父松男さんから叱咤(しった)された。「息子が一生懸命に目をかけていたからこそ、放っておけない」と厳しく接してくれたことがありがたかった。自らの口で1年での幕内復帰を宣言した。

復帰4場所目の今場所で1年ぶりに再十両を果たすと、初日から10連勝。松男さんは場所中欠かさず息子に活躍を報告した。11日目に大翔鵬に敗れた際には「力を貸してやってくれ」と祈った。十両優勝という吉報に、「ホッとしたけど、ここがゴールじゃない。後で息子にも伝えたいね」とうれしそうに言った。

1敗での優勝なら十両1場所通過、来場所での幕内の可能性が高まる。残すは千秋楽。朝乃山は「しっかり目の前の一番に集中するだけです」ときっぱり。亡き恩師に少しでも早く幕内での姿を見せるためにも、最後まで15日間相撲が取れる感謝を込めて土俵へ上がる。【平山連】

◆朝乃山広暉(あさのやま・ひろき)本名・石橋広暉。1994年(平6)3月1日、富山市生まれ。相撲は小4から始め富山商高3年で十和田大会2位、先代高砂親方(元大関朝潮)らと同じ近大で西日本選手権2度優勝。16年春場所で三段目最下位格(100枚目)付け出しで初土俵。前頭だった19年夏場所で初優勝し、20年春場所後に新大関に昇進。189センチ、174キロ。得意は押し、右四つ、寄り。

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