大関経験者で東十両筆頭の朝乃山(29=高砂)が、欧勝馬を破り、7勝1敗と勝ち越しに王手をかけた。

立ち合いから圧力をかけ、まわしにこだわらずに押し込んだ。慌てて押し返してきた相手を、タイミングよくはたき込み。十両の全28人で最上位の番付で、勝ち越せば原則的に番付が上昇するため、来場所の再入幕を決定的とするにも、あと1勝となった。

「当たって、相手が見ながら突いてくるのが見えたので、突きながら僕も対応して、バランスが崩れたところを(はたき込んだ)。前に攻め込んでいるからこそ、はたきが決まったと思います。自分から圧力をかける相撲でいきました」と、冷静に手さばきを振り返るほど、落ち着いて取っていた。

前日18日の7日目には、右目の上と下の2カ所に大きな傷を負った。湘南乃海に勝った際、最後に投げの打ち合いとなり、手をつかずに顔面から落ちて負傷した。それでも前日の取組後は「手をついていたら同体でしたし、手をつかずに顔から落ちてよかった」と話し、白星への執念をにじませていた。痛々しい傷痕が残っていたが、この日の取組後は「塗り薬も塗ったので、昨日に比べると(痛みはない)。シャワーでちょっとしみるぐらい。大丈夫です」と話し、視界が狭まるなど取組への影響もないという。

この日の相手の欧勝馬は、今場所前、何度となく高砂部屋に出稽古に来ていた。高砂部屋の幕下力士らも交えて申し合いを行い、朝乃山は欧勝馬を圧倒していた。それでも「やっぱり関取と幕下とでは力が違う。欧勝馬関は体が大きいのに、小さい相撲もできるので、いい稽古になった」と、感謝していた。互いに手の内は知り尽くしていただけに、やりにくさもあるが「あまり考えすぎると相撲が硬くなるので、土俵の上に上がったら自分の相撲を取り切るだけ」と、相手の動きに応じて対応する、引き出しの多さも見せた。

この日から、十両土俵入りの際の化粧まわしを替えた。前日までは母校近大に贈られたものを着けていたが、この日からは自身の大阪後援会から贈られた、大阪城が描かれた鮮やかな水色のものを初めて着用。「いただいたのは2021年3月。そこから着けようかと思ったけど地方(大阪)場所がなかったり、自分自身も不祥事を起こしてしまったり」と、21年3月は東京開催、22年3月は新型コロナウイルス対策のガイドライン違反で謹慎休場と、着けるタイミングを逸していた。その中で「今年は十両で帰ってくることができましたので、中日から着けようと考えていました」と、大学4年間を過ごした“第2の故郷”で恩返しの思いを一段と高めて土俵に立っていた。

これで4日目に逸ノ城に敗れて以降の連勝を継続。初日からの3連勝を上回る、5日目からの4連勝で勢いに乗ってきた。「今日みたいに自分から圧力をかける、前に出る相撲を取っていきたい」。再入幕を決定的とする9日目での勝ち越しへ、心身ともに充実している。